長内 慶太さん
(JA新はこだて)
農家の時計

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今回の農家さん

長内 慶太さん(JA新はこだて)
知内(しりうち)町出身。介護職を経て、2015年に農家の十代目として就農。ニラのほか、米やほうれんそうを栽培。現在は「知内町ニラ生産組合ニラ移植研究会」の役員をはじめ、「知内町4Hクラブ(農業青年クラブ)」の会長などを務めています。

JA新はこだての特産物
『しりうちにら 北の華』とは?

道内一のニラの産地、渡島(おしま)管内にある知内町は、青函トンネルの北海道側の出入り口がある町としても知られています。町の名を冠したブランドニラ『しりうちにら 北の華』は、葉幅が広く厚みがあり、甘みが強いのが最大の特徴です。「知内町ニラ生産組合」では、生産者とJAが一丸となって品質向上に努めており、栽培方法についての勉強会を年に数回実施するほか、生産したニラを一堂に並べて評価する目揃え会も定期的に実施。厳格な出荷基準を設けるとともに、パッケージのQRコードを読み取ると生産者の顔と氏名が分かるトレーサビリティーを導入。徹底した品質管理でブランドとしての信頼を築き、現在は道内を中心に全国へ出荷しています。
 

■長内さんの1日(5月上旬の一例です)

収穫作業は、
日が昇るまでの早朝に

ニラの栽培は、長内さんと両親の3人で行っています。朝早くから始まる収穫作業は、日が昇るまでが勝負だそう。「ニラが熱を持つと収穫後の日持ちに影響するので、日が当たる前に刈り取ります。日の出が早い夏場は、朝5時半には終わらせています」と長内さんは説明します。
収穫以上に時間をかけて行うのが、ニラの調整作業です。収穫したニラはそのまま出荷せず、根元についた土や余分な葉などを丁寧に取り除き、葉幅や長さなどの出荷規格に沿って選別します。「できる限りいい状態で出荷したいので調整作業に一番気を使います。選果施設に迷惑をかけないように、自分のところである程度きれいにしています」
5月は田植えが始まるため、長内さんは調整作業の合間を縫って、田起こしや稲の苗の育成にも取り掛かっています。

都会で働いて気が付いた、
農業とブランドニラの魅力

北海道でニラといえば知内町というほど、不動の地位を築いている『しりうちにら 北の華』。長内さんがそのブランド力を実感したのは、地元を出て東京で生活していた頃だそうです。「何気なく知内町の出身だと話したら“ニラで有名な町!”と返されて、こんなに遠くまでニラの産地として知られているのはすごいことだと実感しました。そうした強みがあるからこそ、地元に帰ってこようと思えたかもしれません」
生まれた時から農業が身近にあったものの、10代の頃は農業に興味が持てなかったという長内さん。社会に出て、実際に会社員になったことで、自分の生まれ育った環境がいかに恵まれていたのかに気付かされたといいます。「農業は自分の裁量で仕事ができ、頑張れば頑張るほど収益にもつなげられます。会社員を経験したからこそ、そんな働き方にとても魅力を感じるようになりました」

理想のニラを、
すべてのハウスで作ることが目標

長内さんのニラ栽培用のハウスは16棟もあり、1日当たり平均で約200kgのニラを出荷しています。収穫作業は、例年1月中旬頃から続きます。「ニラの苗の定植作業を挟んで、7月には夏ニラの収穫が始まります。すべて刈り終えるのは10月上旬頃。ほぼ一年中収穫していますね」
長内さんによると、ニラ1株の寿命は3年ほど。定植した年は収穫せず、翌年の春までじっくりと生育に時間をかけるのだそうです。「しっかりと株を育てると、いいニラが育ちます。僕が理想とするいいニラとは、葉が広く厚みがあってピンとまっすぐに立っているもの。秘訣はいくつかありますが、一番大事なのは土質だと感じています」と力説します。「就農当時に、田んぼをニラ用のハウスに転換した際、土壌を改良せずに急いで苗を植えたところ、ほとんど生長しなかったんです。水はけが悪いと軟弱なニラになってしまうので、最初の土づくりが肝心だと身をもって実感しました」
長内さんは「ピンと立ついいニラは、歯ごたえも抜群にいいんです。目指しているのは、そんないいニラを全部のハウスで作ることです」と話します。
 

団結力で、
ブランドをますます発展させたい

知内町でニラの栽培がスタートして、2021年は50年目の節目の年。当初はたった8人から始まったニラの栽培が、現在は69戸となり全道一の産地へと発展できたのは、厳しい出荷基準と生産者の団結力の強さにあると長内さんは分析します。「栽培はハウスでしかできません。出荷できる葉の長さや葉幅も決められていて正直厳しいですが、そのおかげでブランドが確立できたと感じます。毎年冬になると、生産者が総出で全生産者のハウスのビニール掛けを行うのも大きな特徴です。みんなが力を貸してくれるので、高齢になっても栽培を続けることができる上、同時期に足並みをそろえて栽培ができるため、出荷量が安定しやすい利点もあります」
次の50年に向けて、「僕たちの世代は、この恵まれている現状にあぐらをかかず、さらにブランドを発展させて次の世代につなげていかなければと改めて思っています」と力を込めます。
ニラ作りで一番うれしいことについて尋ねると「おいしいニラを届けることができ、さらに前年よりも売り上げが上がった時です」と長内さん。やる気に満ちあふれる言葉に、思わずこちらも笑顔になりました。

全国のスーパーで、
北海道産のニラをぜひリクエストして

調整作業を経たニラは、町内にある選果施設に集められ、予冷庫と呼ばれる場所で一晩冷蔵されます。「一定の温度で冷却したほうが、鮮度が長持ちするんです」と説明するのはJA新はこだての石見雄樹さん。その際、ニラが垂直になるようにケースを縦積みにして、品質の維持に努めています。
翌日には、計量や選別がスピーディーに行われ、全国各地へと出荷されます。最盛期は3月〜5月で、冬に休ませた株から最初に出る「一番ニラ」は5月まで出回るそう。「一番ニラに限らず『しりうちにら 北の華』は、どの季節でもおいしいです。何よりも安全で安心ないいニラをお届けしているという自負があります。もし最寄りのスーパーなどで手に入らなければ、お店の人に“北海道産のニラを置いて!”とリクエストしていただけたらうれしいです(笑)」と石見さん。驚くほど肉厚でおいしいニラを、ぜひ一度味わってみてください。