伊林 和彦さん
(JA当麻)
農家の時計

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今回の農家さん

伊林 和彦さん(JA当麻)
大学卒業後、地元の運送会社勤務を経て、2009年に農家の二代目として就農。2016年より「当麻町そ菜研究会 でんすけ部会」の部会長として活躍しています。

JA当麻の特産物
『でんすけすいか』とは?

旭川市から車で約30分の距離にある当麻町。町の顔ともいえる『でんすけすいか』は、黒皮の大玉すいかで、糖度11%以上の甘みの強さとシャリシャリとした食感が特徴です。その栽培が始まったのは1984年。15人の若手生産者が当時国内では珍しかった黒皮の品種に着目し、「一村一品」を目指して取り組みました。ユニークな名称は、水田からの転作により「田」を「助ける」果物であることと、昭和時代の人気コメディアン・大宮敏充の舞台名で、テレビや映画で一世を風靡した「大宮デン助」にも由来しています。
出荷には厳格な基準を設けており、目視とセンサーで糖度、空洞の割合、外観を検査。中でも糖度は、角度を変えて2度計測しています。検査後の認証ラベルには生産者名も明記され、トレーサビリティーにも対応。贈答品としても人気があり、全国的に広く知られています。
 

■JA当麻の『でんすけすいか』栽培スケジュール
 (ビニールハウス栽培の場合)

1株につき1玉しか育てないことで、
甘みのある大きなすいかに

『でんすけすいか』は、生産者で組織する「当麻町そ菜研究会 でんすけ部会」が定めた栽培基準のもとで生産されています。土壌づくりや温度・水分管理などをマニュアル化し、毎年2月から6月の間は、ほぼ毎月勉強会を実施。37戸の生産者が一丸となって技術の向上に努めています。『でんすけすいか』は1株に1玉しか収穫しないため、部会員全員が品質の高いものを作ろうという意識が非常に強く、老若男女、幅広い世代が栽培しており、ベテランの人こそ一年一年ひたむきに勉強会に参加されているそうです。

縞模様が、収穫前に真っ黒く変化

今年6月14日に旭川市で行われた初せりの最高値は、1玉(秀4L)でなんと60万円!『でんすけすいか』は、北海道にとどまらず、日本の高級すいかの代表格です。その畑を実際に見てみたいと、「当麻町そ菜研究会 でんすけ部会」の部会長である伊林さんのハウスを訪ねました。
伊林さんは、14棟もある『でんすけすいか』のハウスを両親と3人で管理しています。父の久信さんは、『でんすけすいか』の歴史が始まった1984年から栽培を続ける大ベテラン。伊林さん自身も12年の間栽培を続けています。
『でんすけすいか』の栽培は、例年4月〜8月中旬頃まで。その間は温度管理に最も気を使うそうで、「ハウスに苗を移植する4月から花が咲いて実をつける5月ごろは、田植えの時期と重なるので一年で一番忙しいです」と伊林さんは説明します。「温度を保つためにハウスは二重にして、それでも寒い日は加温して苗を育てます。ハウスの開閉一つとっても、この時期は風下だけを開けて寒風が入るのを防ぎます。天候も風向きもコロコロ変わるので、やることも考えることもいっぱいになります」
 
意外だったのが、収穫前の『でんすけすいか』は一般的なすいかと同じ縞模様だということ。気温によって変動するものの、伊林さんによるとハウスに定植して40日前後から、真っ黒く変化していくそうです。着色するには太陽光が欠かせないため、伊林さんは腰をかがめて収穫直前まで一玉一玉まんべんなく光が当たるように回転させます。
「天候次第では途中で腐ってしまうこともあり、収穫までたどり着けるのが例年9割ほどです。収穫できても出荷基準を満たさないものばかりという日もあります。マニュアルに沿って栽培しても天候は毎年変わるので、僕に限らず生産者は全員、日々、工夫しながら育てています」

生産者が決めた出荷基準を、
自らの目で選別

一般的に、すいかは叩いて品質を見分けるといいますが、生産者の皆さんはどのように判断しているのでしょうか。伊林さんは収穫時に、中身の状態を叩いて確認するそうです。「中身に空洞があると、少しこもった音がします。空洞がなければ、カンカンと高い音が出ます」
収穫後は果皮をピカピカに磨き、表面の傷の有無や形状、重量の計測なども行います。伊林さんは「選果場での検査の前に、生産者が決めたルールをもとに自らの目で選別し、自己申告しています。そうした意味でも『でんすけすいか』の生産者は責任を持って作っている人ばかりだといえますし、こうした取り組みが信用となり、37年間もブランドが支持され続ける理由の一つのような気がします」と話します。
見た目には傷一つなくても、すいか同士が接触しただけで内部が割れることもあるそうで、「見た目以上にデリケートです。ですから皮が硬くても、すいかは“生もの”なんですよ!と消費者の皆さんに念押ししたいです」と伊林さんは笑顔を見せます。
 

買ってすぐ、
届いた当日が食べごろ

贈り物としても人気がある『でんすけすいか』が、一番おいしい食べごろはいつなのでしょうか。伊林さんは「買ってすぐ、手元に届いてすぐです」と言い切ります。「メロンと同時期に出回るので、勘違いされる人も多いかもしれませんが、すいかは時間をおいても追熟しません。僕らは、ベストのタイミングでハサミを入れているので、できるだけ早めに召し上がっていただきたいです」
伊林さんは、ブランドすいかを作ることに意義を感じる一方で、プレッシャーも大いにあると話します。「高品質なものを育てることは本当に難しいことですが、消費者の皆さんに、“値段相応の価値があったね!”と喜んでいただけるように、いいものを作り続けていきたいです。赤と黒のパッケージを見かけたら、ぜひ手にとっていただきたいです」