井村 敏文さん
(十勝和牛振興協議会)
農家の時計

農家の時計 農家の時計

今回の農家さん

井村 敏文さん(十勝和牛振興協議会 肥育部会 部会長)
浦幌(うらほろ)町出身。高校卒業後、4代目として18歳で就農。21歳のときに畑作との兼業から肉牛専業への切り替えを決断。2019年から「十勝和牛振興協議会」の肥育部会部会長を務めています。

地域団体商標として登録された
『十勝和牛』とは?

北海道の南東部に広がる十勝地方は、日本の食を支える農業大国。広大な十勝平野と、「十勝晴れ」と呼ばれる長い日照時間に恵まれ、畑作や酪農が盛んなエリアです。
2011年に地域団体商標※1に登録された『十勝和牛』は、北海道で生まれ十勝で肥育された肉専用の黒毛和種で、ホクレン十勝枝肉市場に上場される地域ブランド牛。会員452戸で組織する「十勝和牛振興協議会」の会員が肥育し、年間約1,700頭を北海道をはじめ全国に向けて出荷しています。(会員数:2021年4月現在、年間出荷数:2020年度実績)
同協議会では、『十勝和牛』の品質向上と安定供給を目指し、会員同士が積極的に情報共有や意見交換を行ってきました。その努力が実を結び、年々、出荷量が増え、市場での評価も高まっています。
※1地域団体商標とは、地域の特産品等について事業者の信用維持と、地域ブランドの保護による地域経済の活性化を目的として2006年に導入された制度。
 

■井村さんの1日(11月上旬の一例です)

1日2回の餌やりで
牛の体調をチェック

十勝最東端の浦幌町にある井村さんの牧場では、現在、繁殖牛、育成牛、肥育牛を含め約530頭を飼養しています。井村さんと奥様、息子さんの3人で、4カ月から30カ月までの牛を管理。そのほか4人のスタッフが、町内の分場で繁殖牛と生後3カ月までの子牛を担当しています。飼養過程で最も気を遣うのは「牛にストレスをかけないこと」と話す井村さん。なかでも大切なのは、餌やりの時間です。「毎日、午前7時と午後3時の2回、餌やりをしています。牛にも腹時計があってね、それが狂うとストレスがかかり体調不良を起こしやすいんですよ」と井村さんは愛おしそうに牛の頭をなでます。「自分たちで餌やりしながら一頭一頭しっかり顔を見て、体調の変化を確認しています。元気がない牛は、餌に寄って来なかったり、頭が下がっていたり、動きが鈍い。すぐに診てやらないと」。
こうして育てた牛のうち、年間140~150頭を素牛(もとうし)※2として出荷、約100頭を30カ月まで肥育し『十勝和牛』として出荷しています。
※2素牛とは、肥育牛や繁殖牛として育成される前の子牛のこと。

一頭一頭牛の様子を
見極めながら育成

井村さんの牛舎は、月齢ではなく牛の体格ごとに細かく区分けされています。
「一頭ずつ成長具合を見ながら、月に1度牛を入れ替えます。同じ日に生まれても、体格はいろいろ。牛は群れの中で序列を作る動物なので、大きいのと小さいのを同じ牛舎に入れると、小さい牛が負けてしまうんです」と井村さん。そのため給餌スペースには、牛が一列に並んで同時に餌を食べられるよう、ゆとりを持たせています。「そうしないと、小さい牛は後ろに回ってしまい、十分に餌が食べられずさらに成長が遅れてしまいます」。
ストレスがかかっていそうな牛には、ビタミンを配合した餌を食べさせるなど、まるで自分の子どものように、一頭一頭の様子を見極めながら育てています。

飼料に工夫を凝らし、
会員同士が切磋琢磨

井村さんは、現在の配合飼料にたどり着くまでに15年もの歳月をかけました。大麦やコーンなど原料の等級や配合の割合はもちろん、粉砕方法や挽き方などをさまざまに試しながら、脂の質やサシの入り方、赤身の色や状態などを確認。試行錯誤を繰り返し、脂身の甘さと赤身のうま味を出す配合が完成しました。
さらに、牛の腸内細菌を良くするため味噌やスイートコーンの芯、キノコの菌叢(きんそう)などを混ぜた発酵飼料、自家栽培の良質な牧草も与えています。
「協議会のメンバーそれぞれが、熱心に飼料の研究を重ねているので、励みになります。時々、情報交換をしながら切磋琢磨。みんなが努力した結果、最近は『十勝和牛』の全体的な評価が上がり、生産量も順調に伸びています」と井村さんは手ごたえを感じています。

脂身の甘さと、
赤身のうま味を堪能

帯広市内中心部に、井村さんが育てた『十勝和牛』を一頭丸ごと提供する焼肉店「和牛ダイニングマルイ商店」があります。「30カ月もの間、噓なく向き合い育てた自分の牛が、地元の人たちにどう評価されるのか、一番気になることが知れる貴重な場です。お客さんに『おいしい』と言ってもらえると、やっぱり張り合いが持てますね」と井村さん。
そんな井村さんにお気に入りの食べ方と聞くと、「サーロインやヒレを、さっと焼いて塩、こしょうでシンプルに。『十勝和牛』の特徴が一番感じられる食べ方です」とのこと。
取材後、きれいにサシの入ったサーロインを、井村さんのおすすめ通りに味わってみると、脂身の甘さと肉のうま味がしっかり感じられ、後味も意外なほどさっぱり。何切れでも食べたくなるおいしさでした。「ね、うまいでしょ」とニッコリ笑う井村さん。「おいしさにこだわり、健康に育てた『十勝和牛』です。ぜひ一度、味わってみてください!」と読者のみなさんに力強いメッセージを寄せてくれました。
「和牛ダイニングマルイ商店」以外にも、十勝和牛が味わえるお店がたくさんあります。詳しくは十勝和牛プロジェクトのHPで探してみてください。
 
十勝和牛プロジェクトHP