種をつくる。種を届ける。
種づくり〜育種家種子〜
── 小麦の場合 ──
北海道で使われている稲・麦類・豆類の優良品種の種子の起点となるのが、『北海道立総合研究機構』の中央農業試験場遺伝資源部で作られている育種家種子です。「育種家」とは、名前の通り品種改良を手がけた人物のこと。その種子は、育種家の思いを形にした種の親ともいえます。その種を育て、増やしたものを育種家種子と呼びます。そんな育種家種子について、私たちに身近な小麦を例に話を聞きました。
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種をつくる。種を届ける。
北海道で使われている稲・麦類・豆類の優良品種の種子の起点となるのが、『北海道立総合研究機構』の中央農業試験場遺伝資源部で作られている育種家種子です。「育種家」とは、名前の通り品種改良を手がけた人物のこと。その種子は、育種家の思いを形にした種の親ともいえます。その種を育て、増やしたものを育種家種子と呼びます。そんな育種家種子について、私たちに身近な小麦を例に話を聞きました。
北海道中部、滝川市にある中央農業試験場。ここは、育種家種子の生産を専門的に行う試験場で、中でも小麦は、秋まき、春まきを合わせて8品種を扱っています。道内での小麦の作付面積は、穀物類の中で最も大きいため、小麦の育種家種子は、生産の主力ともいえます。
「次の増殖過程である原原種が継続的に生産できるように、小麦をはじめ、主要農作物の優良品種の育種家種子をここに集約して、定期的に栽培しています」
このように説明するのは、小麦の育種家種子の生産を担当する沢口敦史さん。本来であれば、品種改良した機関などが育種家種子を管理するのが一般的で、実際、府県では育種した試験場で、民間企業では独自に種子を増やし、販売先に提供しています。
遺伝資源部長の神野裕信さんは、「北海道の場合は、優良品種については同じ管理下で栽培するほうが効率が良いという考え方から、たとえばホクレンで品種改良した『春よ恋』なども、ここでお預かりしています」と説明します。
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構
農業研究本部 中央農業試験場
(右)遺伝資源グループ主任主査 沢口 敦史さん
(左)遺伝資源部長 神野 裕信さん
神野さんによると、種づくりで大事なポイントは3つ。純度が高いこと、病気を持っていないこと、もう一つは、まいたらきちんと芽が出ることだといいます。
「たとえば『きたほなみ』は、粉の色が白く、うどんにするともちもち感があるという特性があります。そうした種の遺伝的特性を守るためには、純度が非常に重要です。異品種が混ざらない状態で生産者に提供し続けることが、私たちの大きな使命です」と沢口さん。
神野さんは、さらにこう力説します。「誕生から10年以上経っている品種でも、基本的には誕生直後の種から増殖をしているので、当時と性質が変わらない種が出回り続けていることになります。品種の登場からしばらく経つと、『品種の特性が変わっているのでは?』と疑われることがありますが、そんなことは決してありません」。
食用の小麦の生産と異なる点もあるそうです。「種子の生産は、病気の株や異品種、変種を発見しやすくするため、密集して植えません。収量よりも品質の良い種子の生産を重視しています」と沢口さん。神野さんは、「育種家種子は種づくりのトップバッターなので、異品種の種を一粒も混ぜたくないんです。一番安全で一番きれいな種が取れる方法となると、手作業が最良で、種まきから収穫まで機械はほぼ使いません」と話します。
種子は、外観から品質を識別することが難しいため、定期的に発芽率を調査しています
種まきと収穫は、手押し機を使い、収穫で刈り取った小麦は、昔ながらの「はさがけ(天日干し)」をして、一束ずつ脱穀します。
「ここでは50年前の農業が、いまだに続いています(笑)。種子生産の一番根っこの部分は、どうしてもスマート化ができないんです」と神野さんは苦労をにじませます。
沢口さんは、種づくりの思いについて次のように話します。
「生産者にとって、必要なものは肥料や農機具などいろいろありますが、一番大事なのは種子だと思います。いい種がなかったら、いい作物は絶対にできません。安全・安心の農業の基盤であり、大事な仕事だと思っています」。神野さんは、「育種家種子は、水でいうと湧水の部分です。そこが汚れてしまうと、下流が全部汚染してしまいます。すべてに責任を持って携わっています」と語りました。