豚肉

おいしいの研究

豚肉

vol.20

調理師:松浦 沙耶花さん

調理師:松浦 沙耶花さん

Jリーグ 北海道コンサドーレ札幌 選手寮「しまふく寮」調理師、アスリートフードマイスター。2007年から、「しまふく寮」で選手に食事を提供する。アスリートの年齢・競技などに応じて最適なフードプランを提供するアスリートフードマイスターの知識と経験、調理師の技術を活かし、主に昼・夜の食事の献立作り、調理を担う。

豚肉料理が一役!
体のコンディションを整える

おいしいものがたくさん出回る季節。つい、好きなものばかりに手が出ていませんか。子どもはもちろん、現役世代、シニア世代まで、なにをどう食べるかは体のコンディションを整える上でとても重要です。今回は、体が資本の選手たちと向き合う、北海道コンサドーレ札幌の「しまふく寮」の調理師、松浦沙耶花さんを訪ね、食事が体に与える影響、疲労感の軽減が期待できる食材の一つ、豚肉の上手な調理法などを聞きました。

食べることも、トレーニング

食べることも、
トレーニング

───── 「しまふく寮」の選手たちに提供する食事では、どのような点に気を付けていますか。

 

松浦さん: やはり最も重視しているのは栄養バランスで、野菜をたっぷりとれること、一食で30品目をとれることを心がけています。「30品目なんて無理」と思われるかもしれませんが、肉じゃがに大豆を加えたり、ゆで野菜の上にしらすをのせたりしていくと、クリアするのはそんなに大変ではありません。寮では出さないのが、カツ、唐揚げ、天ぷらのような揚げ物です。サッカー選手には低脂肪・高タンパクの食事が良いとされていますから、敢えて揚げ物を選ぶ必要がないんです。

 

───── 献立の基本的な構成を教えてください。

 

松浦さん: 肉料理、魚料理、小鉢2つ、サラダ、味噌汁、ごはん、フルーツ、ヨーグルトです。小鉢は野菜料理で、黄色や赤色のパプリカを加える、大根おろしをのせるなど、箸をつけやすいように見た目にも変化を加えています。レシピは2、3日先までの分を考えておきますが、急に気温が下がった日は温かいものに切り替えるなど、臨機応変にアレンジしています。

 

───── アスリートはいつも食欲旺盛というイメージがあります。実際はどうですか。

 

松浦さん: そうともいえません。特に昼食時は、朝の練習で疲れ果て、食欲が落ちていることがよくあります。バテ気味だなと感じたら、のど通りの良い豚しゃぶなどに替えますし、味付けはさっぱりめに変更します。また、おいしく食べられるように、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供しています。選手たちにとっては、食べることもトレーニングです。選手自身もそうした認識を持っていますから、疲れていても出されたものは残さず食べているように見受けられます。

 

食生活で体が変わる、体を変える

食生活で体が変わる、
体を変える

───── 食生活によって体は変わるものですか。

 

松浦さん: 中学卒業後に入寮し、1カ月で体重が5キロ増えた選手がいます。皮下脂肪がついて太ったということではなく、やがて筋肉になる肉がついた状態です。寮では決まった時間に3食しっかり食べるように指導していますし、自宅にいる時のように、「好きなものしか食べない」、「きょうはごはんはいらない」といった気まぐれはできません。体づくりに気を配った食生活を3年間続けると、ほとんどの選手は見るからに体が厚くなります。

 

───── 「もっと体重を増やしたい」、「近頃太ってきた」などの相談もありますか。

 

松浦さん: はい、あります。体重を増やしたい選手には、チャーハンやサンドイッチなど炭水化物を多くとれる夜食を用意したり、逆に減量したい選手には、カロリーを抑えるように肉料理は湯がいたものを出したり。日常的には、トップチームの選手には豚肉の脂を除き、アカデミーの若手選手には豚肉の脂を混ぜるなど、同じ食材でも年齢などによって使い方を変えるなどの工夫はしています。

 

───── 食べ方ですすめていることはありますか。

 

松浦さん: よく噛んで、ゆっくり食べることをすすめています。よく噛むと食材が細かくなり、栄養が吸収されやすくなります。また、アスリートは試合中に噛み締めることが多いんですね。よく噛むと、咀嚼筋を鍛えることにもなるので、これもトレーニングだと話しています。

 

───── 小柏剛選手、午前中の練習、お疲れ様です。今日のランチはいかがですか?

 

小柏選手: いつものことですが、栄養バランスがすごくいいです。僕はけがに泣かされてきたので、からだづくりに直結する食べる物にはかなり気を使っています。食事内容を毎回撮影し、数日分を見直して偏りがないかをチェックしますし、調味料の量までも頭の中で計算しています。松浦さんの食事はそうした僕にとっても申し分なく、しかもおいしい!とても感謝しています。

疲労感を軽減する豚肉に期待

疲労感を軽減する
豚肉に期待

───── 夕食では、どのような点にポイントを置いていますか。

 

松浦さん: 体を休ませることができ、なおかつ、翌日のパワーにつながる献立を考えています。試合の前日の夕食に必ず出しているのは、豚肉料理です。豚肉に豊富に含まれるビタミンB1には、体内で糖質をエネルギーに代える働きがあり、ビタミンB1が不足すると、ごはんをたくさん食べてもエネルギーに代える効率が悪くなってしまいます。豚肉はソースとからめて焼くことが多く、角煮もよく作っています。

 

───── 豚肉に特に相性の良い食材はありますか。

 

松浦さん: アリシンを含む野菜、たとえば玉ねぎ、にら、にんにくは相性がいいです。アリシンはビタミンB1の吸収を促すとされていますから、ごはん、豚肉、アリシンを含む野菜の組み合わせは最強といえるのではないでしょうか(笑)。アスリートに限らず、成長期の子どもたちにもおすすめしたいですね。

 

───── ホクレンは、疲労感を軽減する機能がある「イミダゾールジペプチド」が含まれている豚もも肉を「機能性表示食品」として届け出を行いました。

 

松浦さん: 疲労感の軽減が期待できるというお墨付きがある豚肉なら、是非、選手の食事に提供したいです。生姜焼き、角煮、豚キムチ、オイスターソース炒め、ねぎ酢ソースがけなど、選手が好きな料理に使いたいです。選手たちもきっと喜ぶでしょう。

 

───── 最後に、松浦さんがどのような思いで食事を用意されているのかを教えてください。

 

松浦さん: けがをしないタフな体を作れるようにと、それが一番です。トップチームの選手になることを目標に、親元を離れて寮で暮らすアカデミーの選手たちには、食事面のケアだけでなく、自宅の食卓にいるような感覚で食事を食べてもらえるよう、ちょっとした会話のやりとりも大事にしています。

 

───── 毎日の食事の大切さがよくわかりました。ありがとうございます。