牧草

おいしいの研究

牧草

vol.19

研究者:白川 結美子さん

研究者:白川 結美子さん

ホクレン農業総合研究所 営農支援センター 訓子府実証農場 畜産技術課。2020年にホクレン入会。牛の餌となる牧草や飼料用トウモロコシの品種開発に従事。海外で流通する品種の北海道への適性などの調査も担当している。TEAM NACSをこよなく愛する。

牛のための
農産物

広大な草原、草を食む牛たちのすがた。雄大な景色がひろがる、酪農王国・北海道。この牧草、実は酪農家が種をまき育てていることをご存知でしょうか? 訓子府実証農場で牧草の研究についてお話をうかがいました。

牛のごはん「牧草」は雑草と、どう違う?

牛のごはん「牧草」は
雑草と、どう違う?

───── 牧草を「育てる」というイメージが今までありませんでした。牧草は、いわゆる雑草とはどう違うのでしょうか?

 

白川さん: 雑草というと、人間が手を貸さなくても自然に生えているものを指しますよね。牧草はそうではなく、酪農家さんによって育てられている飼料です。良質な生乳は健康な乳牛、健康な乳牛は栄養のある餌があってこそ。酪農家さんは良質な飼料を牛に与えようと、牧草を一生懸命に育てているのです。

 

───── 牧草にも種類があるんですか?

 

白川さん: 牧草には、主にイネ科牧草とマメ科牧草があります。イネ科の「チモシー」は寒さに強いことから北海道で最も多く栽培されていて、マメ科の「アカクローバ」や「シロクローバ」と一緒に栽培されています。イネ科牧草が主食で、タンパク質やビタミンなどが多く含まれるマメ科牧草はおかずのような役割です。

 

───── 牧草を育てることにも、コツがあるんですか?

 

白川さん: イネ科とマメ科を混ぜ合わせて育てることで、牛がごはんとおかずを一緒に食べられ栄養バランスが良くなります。また、収量性が向上する他、根粒菌の働きによって窒素施肥量の削減効果もあります。環境にもよりますが、基本的にはイネ科が7割程度、マメ科が3割程度のバランスが良いとされています。

 

───── 放牧用か牛舎の飼料用かで、育てる種類も変わってくるのでしょうか?

 

白川さん: 放牧用は、牛に踏まれても耐えられる強さがポイントです。また、牛が繰り返し食べられるようにするためには、すぐに成長する優れた再生力と、年間を通した高い収量性が求められます。 飼料用の牧草は、草丈が1mぐらいになったところで根元から倒して収穫し、刻んで発酵させたり、乾かして乾草にしたりして食べさせます。たくさんとれること、倒れないこと、病気に強いことなどが大切です。

 

───── 牧草を育てる際に気を配るポイントなどはありますか?

 

白川さん: 酪農家さんは搾乳や牛のお世話をしながら、牧草を育てています。牧草は、1年に数回収穫し、かつ複数年利用するので、適切な時期に刈り取ったり、土に十分な栄養分(肥料)を与えることがとても大切です。

 

酪農を支える一貫した体制

酪農を支える
一貫した体制

───── 品種開発から流通までを一貫しておこなっているのですね。

 

白川さん: 良質な牧草種子を供給し酪農家さんを支えるため、ホクレンでは牧草の品種開発や種子の買い付け、生産、加工、出荷にいたるまで一貫しておこなっています。発芽率など種の品質を検査したり、国内に適した規格へのパッキングなども、小樽市にある種子工場でおこなっているんですよ。

 

───── 白川さんは、牧草のどのようなことに注目して研究していますか?

 

白川さん: さまざまな品種の収量性、病気に対する強さ、越冬後の再生力、夏の暑さへの耐性を観察しています。倒れないかどうかも、牧草の品質や作業性に影響するため、重要なポイントです。さまざまな観点から、どの品種が既存品種よりも優れているか?を見極めます。

 

───── 新品種の研究・開発にはトータルでどのくらいの期間がかかるのでしょう?

 

白川さん: 新しい品種が誕生するまでには、少なくとも3年間試験をして能力を見極めた後、全道各地の試験場でさらに3年間の試験を経て優良と認められる必要があります。干ばつや降雨量の多さなど、年度によって気候も変動します。酪農家さんの手に渡った時に、しっかり生育するよう時間をかけて検証していきます。品種をイチから作るとなると、これらの試験ができるようになるまでの年数が加わるため、トータルで10~15年ほどかかります。

38年ぶりに新品種登場。良質な牧草の研究はつづく

38年ぶりに新品種登場。
良質な牧草の研究はつづく

───── 北見農業試験場との共同研究によって、38年ぶりに新しい品種が出たそうですね。

 

白川さん: 「センプウ」というイネ科牧草チモシーの品種で、極早生といって生育期間が短く、年に3回収穫できるんです。既存品種である「クンプウ」の能力が高く、それを超えるのはなかなかハードルが高かったです。「センプウ」は収量性に優れ、倒れづらく、病気にも強い品種です。

 

───── 栄養価の高い品種も登場したとか。

 

白川さん: イネ科牧草チモシー中生※品種の「センリョク」ですね。北見農業試験場と共同で育成した品種で、チモシーで初めて育種目標として栄養価を向上させた品種です。中生品種は他社を含めて比較的頻繁にリニューアルしているのですが、差別化として栄養価を上げたのは珍しい点かと思います。収量性と栄養価を両立させることはとても難しいのですが、それを成功させたのが「センリョク」です。
※中生(なかて)とは、収穫までの期間を早・中・晩に分けたとき、早生(わせ)と晩生(おくて)の中間のもの。同じ作物であっても、生育の早いものから早生(わせ)、中生(なかて)、晩生(おくて)の品種に分類されます。

 

───── 昨今、生産者のコスト増大や経営悪化の背景に、輸入飼料や燃料の高騰などがあると耳にします。 北海道で育てた牧草だけではまかなうことは難しいのでしょうか?

 

白川さん: 牛の餌は牧草だけではなく、栄養価の高い濃厚飼料を合わせています。濃厚飼料は栄養バランスを保つために大事な飼料ですが、質のよい牧草をたくさん収穫することにより、与える牧草の割合を増やすことができると思います。道内では地域により牧草地の面積が異なるので、少ない地域ではより生産性を上げる工夫が、多い地域では他地域への流通が今後の課題になってくるかと思います。

 

───── 最後に今後に向けて構想していることなどがあれば教えてください。

 

白川さん: 今後も収量をしっかりと確保できるよう品種をリニューアルしていけたらと思います。病気や倒伏への強さはもちろん、北海道の厳しい冬を何年も越せる能力を見極めることも大切です。さらに最近では、栄養価がトピックに上がっているので、牛にとっておいしく良質な牧草を届けていきたいですね。