MAフィルム輸送
[前編]

おいしいの研究

MAフィルム輸送

vol.5

研究者:吉田 慎一さん

研究者:吉田 慎一さん

ホクレン農業総合研究所 食品検査分析センター 食品流通研究課 課長補佐。2005年のホクレン入会から10年間は水稲の研究に従事。現在は輸送技術を中心に、水稲やレッドビート、サツマイモの貯蔵・加工にも携わる。趣味は乗馬、ルアー釣り。

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北海道から全国へ、
もっと新鮮な野菜を届けたい!

北海道の大地の恵みは、日本全国に運ばれ、食卓を彩っています。さらなるおいしさを届けるためには、農作物自体の品質向上も重要ですが、採れたての鮮度をキープする輸送も大切なポイント。そこで今回は、ブロッコリーやスイートコーンなどを対象に、特殊フィルムを使った新しい輸送技術を研究中の吉田さんに話を聞きました。

高くて重たい、氷詰め発泡箱

高くて重たい、
氷詰め発泡箱

全国の幅広い地域で栽培されているブロッコリー。北海道は生産量第1位です。暑さに強そうな青々とした姿ながら、涼しい環境を好み、北海道以外の収穫期は秋から春。そのため、夏には北海道産のブロッコリーが全国各地に出荷されます。ということで吉田さん、まずは従来の運び方について教えてください。「はい、発泡スチロールの箱にブロッコリーとクラッシュアイスを詰めて、冷蔵トラックなどを使って輸送しています」

低温の保持が大切なんですね。でも、この運び方になにか問題が? 「まずは資材代ですね。発泡箱は段ボール箱よりも高く、納品先での廃棄費用も発生します。もちろん氷にもコストがかかります。そして、手間の問題。製氷ロボットがない場合は、1箱あたり5〜10kgの氷を人間がスコップで詰めます。ブロッコリーは1箱に10kgほど入れますので、合わせて15〜20kg。この重たい箱をドライバーさんがトラックに積むので、時間もかかるし、肉体的な負担も大きいんです」

ちなみにどれくらい積むんですか? 「一般的な冷蔵トラックに満載すると、約800箱です」。それはすごい数! 氷がなければ輸送効率も上がり、かなり負担を軽減できそうです。氷詰め発泡箱にはコスト的にも労力的にも改善の余地があるため、新しい運び方を研究されているということですね。

MAフィルムに包まれ、青果物はぐっすり

MAフィルムに包まれ、
青果物はぐっすり

「はい、研究中の運び方では、氷も発泡箱も使いません」。種も仕掛けもありません的な感じですが、代わりに何を? 「この袋にブロッコリーを入れて、段ボール箱に詰めるだけです」と、透明の袋を持って説明してくれる吉田さん。そんなに簡単でいいんですか!? 本当にマジックのような話ですが、その袋の種と仕掛けを教えてください。

「これは『MAフィルム』という特殊な袋なんです。MAとはModified Atmosphereの略で、調整された環境という意味です」。この袋に入れるだけで低温環境に? 「いえいえ、ここでいう環境とは、酸素と二酸化炭素の割合を指すものです」。あっ、よくねた野菜の回でも同じような話が出てきました! 両者の濃度を適正に調整することで、青果物を眠ったような状態にして劣化を防ぐと。

「そのとおりです。このフィルムには肉眼では見えない小さな穴がたくさん開いていて、過剰な二酸化炭素を袋の外に出し、少なくなった酸素を中に入れるという機能があるんです。青果品目の呼吸量に合わせて、穴の大きさや数、素材の種類も変えてあるんですよ」。たしかにブロッコリー用とスイートコーン用では感触が違いますね。それにしても、袋だけでガス濃度を調節してしまうとは、まさにマジック!

よくねた野菜の回はこちら

2年かけて、MAフィルム輸送を徹底研究

2年かけて、
MAフィルム輸送を徹底研究

「ただし、入れるだけでOKの“魔法の袋”ではなく、やはりできるだけ低温を保つことが大切です」。なるほど。でも、それならば氷に頼りたくなってしまいますが…。「実は、氷詰めは“神話”でしかないんですよ。なんとなく安心な感じはしますが、氷なしでも低温管理はできます。実際、納品先に着くころにはすっかり溶けていますので。そこで私たちは、MAフィルム輸送に適した温度条件を調べるため、2015年からの2年間、北海道立総合研究機構の『花・野菜技術センター』と共同で実証試験を行ったんです」

この試験によって、ある温度条件が導き出された結果、MAフィルムを利用したブロッコリーの輸送技術は北海道の「普及推進事項」に採択され、すでに一部のJAで実用化が始まっています。またこの研究は、今年度の全日本包装技術研究大会の優秀研究にも選出されました。後編では、その温度条件の詳細や、吉田さんが全国を飛び回った実証試験の経験談、MAフィルムをメロンの長期貯蔵に使う試みなどについてご紹介します!

なお、11月20日(水)には、MAフィルムをはじめ、6つの研究紹介&ホテルシェフとコラボした注目食材の試食など、北海道の食の今がわかる「たべLABOマルシェ」が、札幌ビューホテル大通公園で開催されますよ! 参加は無料。お申し込みは以下のホームページからどうぞ(申し込み期限を過ぎた場合も、定員に満たない場合は参加可能とのこと。お電話でお問い合わせください)。

北海道立総合研究機構主催
「たべLABOマルシェ」ホームページ