大豆
「とよまどか」
[後編]

おいしいの研究

大豆「とよまどか」

vol.8

研究者:小林 聡さん

研究者:小林 聡さん

北海道立総合研究機構 農業研究本部 十勝農業試験場 研究部 豆類畑作グループ 主査(大豆担当)。北見農業試験場で小麦の品種改良に11年間携わった後、2013年から十勝農業試験場で大豆の品種改良に取り組んでいる。趣味は北海道コンサドーレ札幌を中心としたサッカー観戦。

よりよい品種を生み出し、
さらなる大豆王国へ!

2018年に北海道の優良品種として登録され、今年から作付けが始まった『とよまどか』。固まりやすくて甘みも強いため、おいしい豆腐をつくるための品種として大いに期待されています。そんな『とよまどか』をはじめとした大豆の品種改良について、前編に引き続き、十勝農業試験場の小林さんにお話を聞きました。

豆腐づくりも研究者の大切なお仕事

豆腐づくりも研究者の
大切なお仕事

ものすごい種類の大豆が植えられている試験圃場から屋内へ移動してきました。いろいろな機械が置いてありますが…。「ここでは圃場で穫れた大豆から豆腐をつくって、その硬さを測定しているんです」と小林さん。

えっ、豆腐づくりも? 「はい、大豆を一晩水に浸け、翌日フードプロセッサーで砕いて抽出した豆乳を、にがりとともに小さなプラスチック容器に入れ、加熱・冷却して完成ですね。毎年200種類ほどの大豆でつくります。大豆、水、にがりの量や各工程の時間などすべての条件を揃えて。そうして出来上がった豆腐の硬さを測定することで、それぞれの大豆の固まりやすさを確認しています」。

ちなみに今日は小林さんお手製のお豆腐は? 「この時期(9月に取材)はまだ大豆が穫れていないので…」。じ、じつは、市販の豆腐を用意してきたのですが…。「では、その硬さを測定してみましょう(笑)。お、木綿ですか。いつもつくっているのは絹ごしなんですよ。木綿だとどういう数字が出るのかな」。

測定器はどういう仕組みなんですか? 「セットした豆腐に、上から棒を押し当て、少しずつ力をかけていき、ぐちゃっと潰れるときに、どのくらいの力が必要なのかを測定するわけです。…あ、潰れましたね。やっぱり木綿は数字が大きいです。普段は60ぐらいですけど、これは140という数字が出ました」。絹ごしと木綿、普段食べている食感どおりの数値という感じですね!

豆腐を固まりやすくするものの正体とは?

豆腐を固まりやすくする
ものの正体とは?

絹ごしと木綿の違いはさて置き、豆腐にしたときの固まりやすさというのは、何で決まるのでしょう。「それが、実は明らかになっていないんですよ」。えっ? すごく意外な答えでした。「タンパク質の量が関係しているのはわかっているんです。ただ、少し固まりづらい『ユキホマレ』(前編に登場)と、固まりやすい『とよまどか』のタンパク質含有量はほぼ同じなんですよね。つまり、ほかの成分も固まりやすさに関係しているはずなのですが、まだ解明されていません」。

なるほど、わたしたちは日ごろ当たり前のようにおいしく豆腐をいただいていますが、その原料である大豆は、研究者視点だとまだまだ奥が深いものなんですね。ちなみに、タンパク質以外にはどのような成分が? 「タンパク質、糖、脂肪が3大成分です。大豆油の原料となる大豆だと脂肪の量が重要ですが、わたしたちは豆腐や納豆、煮豆などに使う大豆の品種開発をしていますので、あまり気にしていません」。

3大成分のもう1つ、糖はやはり「甘み」に関わってきますよね? 「はい、ですから糖の量はわたしたちも測定しています。なかでも大豆に多く含まれていて、甘みも感じやすいショ糖に注目していますね。『とよまどか』はショ糖も多く含まれているので、おいしい豆腐になるんです」

『とよまどか』の次にめざしていること

『とよまどか』の次に
めざしていること

固まりやすく、甘みもしっかり出る『とよまどか』は、おいしい豆腐をつくるための究極的な品種だと感じてしまいました。それでも、小林さんをはじめとした研究者のみなさんは、さらなる良質な大豆を生み出そうとしているわけですよね。どのような面で『とよまどか』を越えようとしているのですか?

「いまは収量性の向上に力を注いでいます」。収量性とは、同じ面積からどれくらいの量が穫れるか、ということでしたね。さやの中に何粒入っているかというお話を前編でうかがいました。「はい。それと、さや自体の数、1粒の重さ。3つのかけ算で収量性を示す数字が導かれます。わたしたちの品種開発の目的は、これまで話してきたように加工のしやすさ、病害に対する強さなどさまざまですが、なかでも収量性を上げるのはとても難しいんです」。

おいしさだけではなく、育てやすさや使いやすさも合わせて、よりよい品種を追求されていると。「そうですね。豆腐の原料は、輸入大豆もけっこう多いんですよ。作付けが始まったばかりの『とよまどか』には期待していますし、それに続く新たな品種も生み出し、道産大豆をたくさん使ってもらえるようになれたらうれしいです」。もっともっと北海道を大豆王国に! 今日も十勝で研究が進められています。