北海道米
「えみまる」
[前編]

おいしいの研究

直播向け品種「えみまる」

vol.12

研究者:森田 耕一さん

研究者:森田 耕一さん

北海道立総合研究機構 上川農業試験場 研究部 水稲グループ。2017年に北見農業試験場からキャリアをスタートし、小麦の品種開発を担当。2020年、上川農業試験場に異動し、以降、水稲の品種開発に携わっている。趣味はガーデニングとキーボード演奏。

稲作を未来へつなぐ、
期待の直播向け品種「えみまる」

豊かな甘みともっちり食感が好評の「ゆめぴりか」をはじめ、全国にファンを広げている北海道米。1980年代から優良米の開発に力を注ぎ、ブランド力を確固たるものとした現在も、生産者や消費者のさらなるニーズに応えるべく、品種開発が展開されています。なかでも今回は直播栽培向け品種「えみまる」について、森田さんにお話を聞きました。

直播と移植、稲を育てる2つの方法

直播と移植、
稲を育てる2つの方法

お米の国で暮らす私たちにとって、水が張られた田んぼに苗を植える様子は、誰もが思い浮かべることのできる光景でしょう。でも時を遡れば、「苗を植える」のが当たり前、というわけでもなかったのだとか。「北海道でも開拓当初は、田んぼに直接、種籾(たねもみ)をまくことが多かったようです」と森田さん。このような育て方を「直播栽培」と呼ぶそう。「播」は種をまくという意味の漢字で、「ちょくは」「ちょくはん」、または「じかまき」と読みます。

一方、現在一般的な苗を植える方法は「移植栽培」。ハウスで育てた苗を田んぼに移して植えることから、このように呼ばれています。ではどうして、直播から移植へと主流の栽培方法が変化してきたのでしょうか。「やはり移植のほうが安定的に稲を育てることができるからです」。なるほど、とはいえ今回は、直播向けの品種開発についてお話をうかがいにきました。つまり、直播にも何かいい部分があるということですよね?

苗を育て、田んぼに運ぶのはとても大変

苗を育て、
田んぼに運ぶのはとても大変

「そうですね、直播のいちばんのメリットは省力化です。つまり農家さんの負荷が少ない栽培方法ということです」。たしかに、ハウスで苗を育てるプロセスを省くことができますものね。「はい、育苗自体も大変ですし、育てた苗の容器は数kgと重たく、それが大量にあるわけですから、田んぼまで運ぶ作業もかなりの重労働なんです。その点、直播栽培は軽い種籾をまくだけなので、負担は格段に軽くなります」

農業では人手不足や高齢化が大きな課題になっていると聞きますので、生産者のみなさんの営農を支える省力化は、北海道の農業が元気であり続けるためにも欠かせないポイントだと思います。それで直播栽培が再び注目されているわけですね? 「はい、近年では全国的に直播栽培の作付面積が増えている状況です」

農林水産省の資料によれば、全国の直播栽培の作付面積は1995年から2019年にかけて約5倍、北海道にいたっては約17倍になっています! とはいえ、まだ全水稲作付面積のわずか2.5%程度なんですね。「最近は直播での生産を安定させる技術が開発され、農家さんの技術レベルも上がっていますので、今後ますます直播栽培の比率が伸びていくことが予想されています」

低温に強く、たくさん穫れる品種をめざして

低温に強く、
たくさん穫れる品種をめざして

栽培技術の向上と併せて、より優れた直播向け品種の開発も進められてきたのだと思いますが、道総研での開発の歴史をざっと振り返っていただけますか。「2003年に品種登録された『大地の星』や、2006年に登録された『ほしまる』あたりが、道総研が携わった最近の直播向け品種です。そして、2018年に品種登録されたのが『えみまる』です」

今回の主役ですね! 「えみまる」の開発にあたっては、どのようなテーマが設定されたのですか? 「田んぼに種籾を植えてから低温の期間が続くと、苗がうまく育たないことがあるんです。この低温苗立性を向上させることがいちばんのテーマでした。併せて収量性の改善も図られました」

そうして誕生した「えみまる」は、2019年から本格的な栽培が始まり、すでに当初の普及見込み面積を超えているということで、その優秀さがうかがえます。後編では、北海道の稲作を未来へとつなげる直播向け品種「えみまる」について、さらに深掘りしていきます!