北海道米
「えみまる」
[後編]

おいしいの研究

直播向け品種「えみまる」

vol.12

研究者:森田 耕一さん

研究者:森田 耕一さん

北海道立総合研究機構 上川農業試験場 研究部 水稲グループ。2017年に北見農業試験場からキャリアをスタートし、小麦の品種開発を担当。2020年、上川農業試験場に異動し、以降、水稲の品種開発に携わっている。趣味はガーデニングとキーボード演奏。

生産者も消費者も笑顔にする
「えみまる」の力!

ここ20年ほどで徐々に作付面積が増えている稲の直播栽培。田んぼに直接、種籾(たねもみ)をまく栽培方法です。ハウスで育てた苗を田んぼに植え替える移植栽培と比べて、格段に省力化を図ることができるのが最大の魅力。この直播栽培向け品種のニューフェイスとして好スタートを切った「えみまる」について、前編から引き続き森田さんにお話を聞きました。

おいしさだけじゃない、総合力が強み

おいしさだけじゃない、
総合力が強み

2019年に本格デビューした「えみまる」。今までの直播向け品種と比べて、具体的にどのような点で優れた品種になったんですか? 「まず、低温苗立性がとても優れています。また、重大な病害である稲熱(いもち)病への抵抗性が強く、白未熟粒(しろみじゅくりゅう)が少なく、収量もやや多いということで、総合的に高く評価されています」

白未熟粒というと? 「乳白色になった玄米のことです。中にでんぷんがうまく詰まっておらず、そうなると白く見えるんです。食味や見た目が悪くなってしまうことに加え、精米する過程で砕けやすく、歩留まりの低下にもつながってしまいます」。なるほど、「えみまる」なら、おいしいお米を、無駄なく食卓へ届けられるということですね!

新しい品種をつくりだす苦労と喜び

新しい品種をつくりだす
苦労と喜び

さて、稲の品種開発には10年ほどかかるということを、以前に「ゆめぴりか」の回で聞きました。ものすごい数の候補から何年もかけて少しずつ絞り込んでいくんですよね。「交配して増やした数万種類の個体からスタートして、数千種類の予選、数百種類の1、2回戦、数十種類の準々決勝・準決勝、わずか数種類の決勝という感じで選抜を進めます。最終的に1つも品種登録されない年も普通にありますね。近年は特にハードルが上がっています」

それはなぜ? 「求められる条件が多くなっているからです。今ある品種よりも明らかに全体的に優れていないと、新しい品種にはなれません」。では、品種登録まで行き着いたときには喜びもひとしおでしょうね。「そうですね。私はここの前に勤務していた北見農業試験場で、小麦の品種開発・登録に立ち会うことができました。新品種を自分たちの手でつくり、農家さんから消費者のみなさんまで、いろんな方に喜んでもらえるのはとてもうれしく、この仕事の醍醐味だと思います」

ちなみに圃場や室内でさまざまなお仕事をされていると思いますが、特に好きな作業はありますか? 「育種の最初の数年は、草丈や籾の付き具合など、見た目の感覚で選抜するのですが、田んぼでよさそうな稲を発見したときはやっぱりうれしいですね(笑)。収穫を終え、冬になるとでんぷんの量や粘りの強さなどさまざまなデータを取りますが、それらの数字とにらめっこする時間も楽しいです」

これからの稲に求められる重要な特徴とは?

これからの稲に求められる
重要な特徴とは?

現在、森田さんたちが直播栽培向けの稲を開発するにあたって掲げている目標を教えてください。「『えみまる』は全体的に優秀なのですが、収量の面では改善の余地がまだあります。『えみまる』の良さを生かしながら多収性をめざして開発を行っているところです」

たしかに、生産者が育てる品種を選ぶ際、多収性は重要な評価ポイントになりそうですね。「はい、それに加え、北海道では徐々に稲の作付面積が減っていますので、いかに生産量を維持するかという観点からも、多収性の重要度は高まっているんです」。有力候補はあるんですか? 「あります。今は7年目の優良品種決定試験中です。決勝を戦っているところですね(笑)。品種になれるかどうかは、この先数年かかる試験の結果次第ということになります」

今回の主役「えみまる」は、省力化とおいしさを兼ね備え、生産者も消費者も笑顔になるという意味を込めて名付けられたそう。上川農業試験場による食味評価では、北海道で最も食べられている「ななつぼし」と同等評価! 直播栽培という稲作の未来を切り開きつつある期待のニューフェイスです。スーパーなどで見かけた際は、ぜひ手に取ってみてくださいね。