Vol.37
個性を愛するチーズ
~ASUKAのチーズ工房~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

個性を愛するチーズ
~ASUKAのチーズ工房~

アイヌ語の「ムッカペッ(川尻がたえず動く)」が語源という説、「ムクアプ」(ツルニンジンの多いところ)」が訛(なま)ったとする説など、町名の由来は諸説ある鵡川(むかわ)。2006年3月に穂別町と鵡川町が合併し、新しい「むかわ町」が誕生した。
北海道の太平洋岸全体で漁獲量が減少している「ししゃも」の町として有名だ。

ASUKAのチーズ工房は、開拓三代目で、先代から酪農に転換した毛利牧場の現在の経営主、毛利松雄さんの娘である北川飛鳥さんが2008年に立ち上げた。飛鳥さんは、静内農業高校を卒業後、酪農学園大学で乳製品加工を学び、道内のチーズ工房で修業を積み、実家に戻った。
現在、酪農は父と弟が担当。乳を搾る牛(経産牛)の頭数は40頭と、北海道の平均(約80頭)の半分程度。規模を拡大しないのは、家族で目の届く範囲で手間をかけていきたいという考えのあらわれだ。
その牧場で使っていた育成牛舎をチーズ工房に改築。熟成庫は、海上コンテナを改造した。

自分の家族が営む牧場で大切に育て、搾った乳を、どうにかして多くの人に知ってもらいたいと考えた飛鳥さんは、その表現方法としてチーズを選んだ。
幼いころから牛とともに暮らし、その牛を大切に育ててきた両親の姿を見てきた。毎日が同じような作業の繰り返しに見えても、牛の体調、天候、えさの具合は一日として同じではなく、一日として同じ生乳ではないことを知っている。そして、様々な菌により醸し出されるチーズもまた、全く同じ出来にはならない。その違いを「個性」として尊重し、出来の良し悪しだけでなく、「個性」として愛でていく。飛鳥さんのチーズには、その寛容さと博愛の気持ちが溢れている。
 
飛鳥さんは、昨年、町内の子供たちを対象に、食料品や生活用品を配布する「むかわのこども食堂」を立ち上げた。2018年の胆振東部地震や、長引くコロナ禍を通して、様々な価値観や暮らしの違いを受け止め、困難にある人たちにあたたかく手を差し伸べる姿勢は、こうした取り組みにもにじみ出ている。

チーズの紹介:ストリングしおかぜ
地元に愛されるチーズをと、町の名産品・ししゃもの粉末をチーズに混ぜ込み、ししゃものだししょうゆを使って味付けしたストリングチーズ。魚介を取り入れたチーズは世界的にも珍しいこともあってか、昨年11月にスペインで開催された世界的なコンテストで賞を獲得。審査会場では、「寿司チーズ!」と驚きのこえがあがったとか。
 
< ASUKAのチーズ工房 >
〒054-0015 北海道勇払郡むかわ町汐見281
https://asuka-cheese.com