Vol.38
鼎のチーズ
~アンジュ・ド・フロマージュ~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

鼎のチーズ
~アンジュ・ド・フロマージュ~

北限のブナの森が有名な黒松内町。
町が、古い牛舎を「地域再生拠点交流観光研究実験施設」として、食を核とした拠点づくりを行おうと指定管理者を募集したところ、札幌でお菓子を中心としたカフェを構え、その場所でチーズ製造の勉強会などを開催していた西村聖子さんが応募。勉強会の講師を務めていたチーズ技術者とともに2011年に立ち上げたのが、アンジュ・ド・フロマージュである。

チーズ技術者のひとり三浦豊史さんは、「北海道クレイル(共和町)」で25年チーズづくりに携わった後、大学でチーズ製造を教えていた。もうひとりの技術者である射場勇樹さんは三浦さんの教え子で、知識欲に満ちた学生だったという。
聖子さんのチーズ熱、チーズ愛から始まった、3人でのチーズ工房の立ち上げ。思ったようなチーズができず、はじめは苦労もあったという。
ふたりの技術者はときに支えあい、だが、お互いの「自分のつくりたいチーズをつくること」を尊重し、そうしたふたりを指揮者のように調和をもって包み込む聖子さん。
立場も年齢も違う3人が歩み続け、かれこれもう10年になる。製造するチーズの種類は、20種類を超えた。

工房のホールでは、時折、音楽コンサートや食についての学びの場が開催されている。
若手のチーズ製造者、これからチーズ製造を志す人たちが集まったチーズ製造研修なども行われ、ここでの学びがそれぞれのチーズ工房の技術向上の糧となるとともに、機会の少ないチーズ製造技術者の交流の場ともなっている。
ホールには、北海道の小規模ナチュラルチーズ工房の先鞭をつけた、「こんどうチーズ牧場(せたな町)」の故近藤恭敬さんが製造に使った道具が置かれている。
近藤さんが工房をたたみ療養中のなか、半生を振り返るお話の会を開いたのも、この場所だった。
単にチーズをつくる以上に、人と文化が入り混じる空間。
頻繁に人が出入りするホールではないが、いつでも来ていいんだよというスタンスが、この工房らしさと言えよう。
アンジュ・ド・フロマージュの歩みは、ゆっくりとゆっくりと進んでいく。

チーズの紹介:
リヴィエールブラン(牛乳製・白カビタイプ)
三浦豊史さんが作る白カビチーズ。優しい塩味で、そのままはもちろん、ジャムや胡椒を添えてもよく合う。日が経つにつれて熟成が進み、白カビ特有の風味が増す。名前は、工房のある地名(白井川地区)をフランス語にあてたもの。
 
< アンジュ・ド・フロマージュ >
〒048-0136 北海道寿都郡黒松内町字赤井川114番
http://angedefromage.com/top.html