Vol.40
穏やかな笑みをたたえるチーズ
~八雲チーズ工房~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

穏やかな笑みをたたえるチーズ
~八雲チーズ工房~

「古事記」所載の「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣つくる作る その八重垣を」という和歌詩から、山越内村遊楽部(ゆうらっぷ)の開墾事業を始めた旧尾張藩主・徳川慶勝候公が命名したという八雲町。移住してきた旧尾張藩士族の人々は、入植してすぐに牛馬を使った耕作を行い、酪農が広がっていったところから、八雲町は、「北海道近代酪農発祥の地」と言われている。
遊楽部川を上流に数キロ進んだ木立に囲まれた中に、八雲チーズ工房はある。

酪農業に惹かれ、高校の時に岩手から八雲に渡った高橋静さん。実習のためノルウェーに3年程暮らし、チーズがいつも食卓にある生活を過ごしたそう。その時の経験に思いを馳せ、1996年、45歳の時に長年勤めた職を離れてチーズの道へと一念発起。

八雲町でチーズづくりをやろうという決め手となったのは、八雲町の生乳の品質の高さに惚れ込んだから。放牧主体で新鮮な牧草を食べた牛からいただく、優しい味わいの生乳だからこそ、余計なものを一切使わず、脂肪調整も行わず、素材の味わいを活かすことをこころがけているという。

「凝ったものはないんですよ」と、高橋さんはいつも笑みをたたえて言う。私が初めて高橋さんを訪ねたのは、たしか24年前。そのときも、突然訪れた見知らぬ大学生を、高橋さんご夫妻は穏やかな笑みとともに、受け入れてくれ、チーズづくりのことをいろいろと教えてくれた。

地域を大切に、身の丈を超えたチーズ生産はしない。趣味の自転車や、孫との時間などを大切にして、無理をしない。
そうはいいつつも、工房を訪れると、いつも奥様の由美子さんが、「ちょっと待ってね。主人、工房の方にいると思うから」と自宅地下の工房に呼びに行ってくださり、高橋さんは製造の最中だったことがわかるエプロンをはずしながら、タオルで腕を拭きつつ、穏やかな笑みでいつも歓迎してくれる。週2〜3回の製造といいつつも、チーズづくりが好きで、いつも工房にいるのだなと感じる。

数年前から、娘さんの旦那さんの松岡孝明さんが、チーズづくりをともに行うようになった。「自分の代でチーズづくりは終わりでいい」と言っていた高橋さんだが、とても嬉しそう。
穏やかな笑みをたたえたチーズづくりは、新しい作り手を迎え、継承されていこうとしている。

チーズの紹介:
カマンベール遊楽部
優しく爽やかなミルクの風味が心地よいカマンベールは、熟成が進むにつれて味わいが増していく。「地元産の生乳で、八雲の人にも安心して食べてもらえる、優しいチーズを」という高橋さんの思いが伝わるような、柔らかめの仕上がりになっている。
 
< 八雲チーズ工房 >
〒049-3121 北海道二海郡八雲町上八雲461-6
https://yakumo-cheese.shop-pro.jp/