Vol.41
海風香るチーズ
~ブルーグラスファーム~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

海風香るチーズ
~ブルーグラスファーム~

町を流れる雄武(おうむ)川の河口が、嵐の時には、川から流れ出る水よりも、海から打ち寄せる波の勢いのほうが強く、塞がってしまうことから、アイヌ語の「オムイ」(河口が塞がる)を語源として名づけられた雄武町。町が面するオホーツク海は、冬の間は流氷で覆われ、その流氷が届ける豊かな栄養が毛ガニやウニ、ホタテなどの海の幸をもたらしてくれる。

オホーツク海からわずか500mのところにあり、150ha以上の牧草地を持つ渡辺牧場。時に厳しいオホーツクの海風は、広大な牧草地にミネラル分を運んでくれる。渡辺牧場では、この牧草を初夏から秋にかけて収穫し、干し草やサイレージ(発酵飼料)にして牛にたっぷりと与えている。

そうして生まれる乳のおいしさに、渡辺さんは自信を持っていた。どうにか、この乳のすばらしさを直接伝えることはできないか。2004年、学生時代に学んだ加工技術と各地の施設での研修経験を糧に、チーズ工房を立ち上げた。

工房の名前は、「ブルーグラス(=青草)ファーム」。牛は、そもそも人間が直接口にできない草を食べ、それを動物性たんぱくを含む「乳」として人間に与えてくれる。だから、草の出来が乳にそのままあらわれる。このことが伝わるチーズは?と考え、熟成させない分、乳本来の風味がするとされているストリングチーズを作り、食べてみたとき、渡辺さんの乳に対する自信は確信に変わった。「ウチの牧場の味だ」と。

渡辺さんは、乳のおいしさが伝わるストリングチーズ、モッツァレラチーズ以外にも、独自性のあるチーズを模索していた。そのなかで、ストリングチーズを作っている際に、ちょっとうまくいかなかったチーズを熟成庫に置いていたところ、偶然にもほんのり酸味のあるチーズに生まれ変わったそうだ。そのチーズを「ハードグラス」と名付け、商品化に導くまで2年の年月をかけた。いまはハード系のチーズ、スモークしたチーズなど、独自性のあるチーズが他にも並ぶ。

草あっての酪農と言い切る渡辺さん。その思いを込めた「ブルーグラスファーム」の名前とともに、雄武らしい海風を感じられるチーズは、この地域の酪農の可能性の光を、小さいながらも、しっかりと照らしている。

チーズの紹介:
モルディ
ゴーダタイプのチーズを、工房に住む“地カビ”の力で1年以上熟成させたもの。
乳のコクと酸味が凝縮されており、複雑な風味は独創的。
 
< ブルーグラスファーム >
〒098-1701 北海道紋別郡雄武町北雄武355-1