任せる、見守る、支えるに包まれたチーズ
〜長坂牧場チーズ工房〜

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

任せる、見守る、支えるに包まれたチーズ
〜長坂牧場チーズ工房(標茶町)〜

シベッチャ(大きな川のほとり)のとおり、南北に釧路川が流れる標茶(しべちゃ)町。釧路湿原の3分の2は標茶町にあることはあまり知られていないかもしれない。
長坂牧場を経営するのは3代目浩行さん。弟の泰裕さんがチーズをつくる。

自ら、夢だこだわりだと積極的に話をするタイプではない泰裕さん。しかし、弟の考えをしっかり理解し、代弁して浩行さんが言う。「彼のつくるチーズには、彼のまっすぐさと、やさしさが表現されていると感じるのです」。
浩行さんは選手として空手を続け、町内の子供たちの指導も行っている。牛たちに接するときも、泰裕さんのチーズづくりに対しても、共通しているのは、「任せる」「見守る」「支える」のバランスのとれた優しさだと感じる。きっと、空手道場における子供たちに対しても同じだろう。

長坂牧場を訪問した時、浩行さんと放牧地を歩きながら、積もる話に花を咲かせていた。そのとき、パドックに小さい動物の影が見えた。
「ああら、生まれてるな。気がつかなかったな」。のんきなまでに笑う眼差しと、私が泰裕さんにチーズづくりのことを尋ねている際、自分の考えを丁寧に言葉に置き換えていく、弟の姿を見る眼差しは、同じ優しさをたたえていた。

信頼をもって任せ、必要以上に干渉せずに見守り、手助けが必要な時は支える。家族でも、友人でも、会社組織でも、社会のどの場面においても大切なこと。
兄と弟、家族、そして地域の中で、鼎(かなえ)のバランスで生み出されたチーズは、それを口にすると、人は一人で生きているのではないんだという安心感と優しさに包まれる。