「らしさ」を大切にするチーズ
〜半田ファーム(大樹町)〜
「大木が群生するところ」を意味する「タイキウシ」を由来とする大樹町。戦前の北海道開拓時代に酪農を始めた半田ファーム。日本のナチュラルチーズ黎明期において、酪農家がチーズづくりを行うということに取り組み始めた先駆者のひとりであることは、誰もが認めるところだろう。
1998年頃。私が帯広畜産大学在学中に、酪農家が始めたチーズ工房があるという話を耳にし、訪れたのが半田ファーム。私が、日本のナチュラルチーズと初めて出会ったのがこのときだ。牧場に入ると、自宅2階のログハウスにカフェがあった。その扉を開けると、羆のような大きな体、髭面の親父さん(司さん)と、にこやかに細い眼で笑う母さん(芳子さん)。
カウンターに座った私に、親父さんは、チーズの試食を1つずつ出しながら、熱っぽく語ってくれた。
「ヨーロッパでは、それぞれの村ごとに特徴あるチーズをつくっている。同じ地域で同じタイプのチーズをつくっても、酪農家ごとに味わいが違う。北海道においても、牛もそれぞれ個性がある。酪農家ごとに与えるエサのバランスも違う。地域ごとに草の植生も異なる。同じ牧草の種をまいても、土壌が違うんだから同じ草にはならない。それぞれの酪農家「らしさ」が表現できるのが、チーズの面白さなんだ」
親父さんの言葉をきっかけにチーズに興味を持ち、北海道内のチーズ工房を訪ね歩くようになった。どの工房でいただいたチーズも、香りも味も違うし、考え方も違う。そして、なによりみんな美味しい。いろいろな工房のチーズを味わいながら、親父さんが言っている言葉の意味を反芻し、色とりどりな多様性の面白さに、魅了されていった。
自らも、故・近藤恭敬さん(こんどうチーズ牧場(旧瀬棚町))からいろいろ教えてもらった恩を次の世代に返していくべく、たくさんの研修生を受け入れ、そして半田ファームで学び、本格的にチーズづくりへの道に入った人も少なくない。今は、4年間のフランス留学を経て戻ってきた次男の康朗(やすあき)くんが、チーズづくりを担う。
一見チーズの種類を見ると、親父さんがつくっていたときと変わらないように見える。しかし、フランスでのチーズ作りの学びを活かし、乳酸菌の配合など独自の改良を続けている。親父さん「らしさ」から、康朗くん「らしさ」のチーズへ進化していくのだろう。
人に、牛に、自然に対し、正直で飾らない半田ファームの物語は、続いていく。