牛・草・人の循環が生み出すチーズ
~ノースプレインファーム~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

牛・草・人の循環が生み出すチーズ
~ノースプレインファーム(興部町)~

アイヌ語のオウコッペ(川尻の合流するところの意)に由来し、江戸時代から漁業の拠点として栄えていたという興部(おこっぺ)町。
ここに、今でいう酪農の「六次産業化」の先駆けであるノースプレインファームがある。チーズ、バターなどの乳製品加工のほか、ファームレストラン「ミルクホール」が人気だ。ノースプレインファームを語る上で、学校給食の牛乳のことを欠かすわけにはいかない。1990年代まで、学校給食への牛乳の納品は、大手乳業による入札により決められていた。大黒農場の三代目、大黒宏さんは、「酪農地帯の小学生に、なぜ自分の地域で搾られた牛乳を飲ませられないのか。」という率直な疑問から、行政や関係機関へ情熱をもって働きかけ、小規模プラントの入札参加という固い門戸を開いた。

私が北海道に入庁し、初任地網走支庁(現オホーツク総合振興局)で酪農畜産担当だった頃、酪農が盛んな管内北部への出張が多く、昼食や、ソフトクリームを食べがてら、ノースプレインファームによく立ち寄った。その都度、大黒さんは、わざわざ出てきて、若い一道庁職員だった私に情熱的に話をしてくれたものだった。かれこれ20年前くらいのこと。「今野君。酪農というのはね、すごく可能性のある仕事なんだ。搾った生乳1ℓをそのまま売れば、60円くらい(当時)だろう。でも、それをチーズやバターに加工すれば、10倍くらいで売ることができる。さらに、それを料理に加工してレストランで提供すれば、さらに10倍くらいの価値をつけることができる。僕のね、目指す先は、牛1頭で1家族を養えること。40頭の牛を飼っているならば、40世帯の家族を養えるようにしたい。これが、酪農の可能性だと思うんだ。」

実直で、お世辞にも商売上手とはいえない大黒さん。私が出会ってからの20年間、いろいろな紆余曲折もあった。しかし、軸にある「地域における持続的循環型社会の構築」ということは、いつまでも一点の曇りもない。その情熱は、酪農部門と乳製品加工部門での有機認証の取得や、オホーツク管内全域の農林水産漁業者、観光業等の関係者とともに、持続的な食と観光の在り方を 考え、取り組む「一般社団法人オホーツク・テロワール」の立ち上げにも象徴されている。
その思いが、次の世代を巻き込み、続いていくことを期待している。