誠実なチーズ
~川瀬チーズ工房~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

誠実なチーズ
~川瀬チーズ工房(長万部町)~

「川尻が浜辺にそって横に流れている」「オ・サマム・ペツ」に由来する長万部(おしゃまんべ)。北海道の難読地名のひとつとしても有名だ。
その長万部町に入植して1世紀以上たつ川瀬牧場。牧場からほど近い町中で2017年にチーズ工房を立ち上げたのは、次男の昭人さん。牧場では、父親の昭市さん、長男の直人さんが丹精込めて、土づくり、草づくり、牛づくりに向き合っている。

川瀬さんとの出会いは、北海道のチーズの作り手から先生と慕われる北海道乳業の山本博紀さんとお話をしていたときのこと。「今野さん、川瀬さんのチーズ食べたかい?すごく出来がよいよ!」というお話をいただき、その翌月には長万部町に向かった。
酪農学園大学で乳製品製造を専攻したこと。大手乳業メーカーにて、首都圏で営業勤務、北海道の工場で製造勤務を経て、道内の工房で研修を受け、そして自分の工房を立ち上げたこと。
ひとつひとつのたどってきた足跡にも、その語り口にも、余計な飾りつけがなく、純朴で、まっすぐであることがとても印象的だった。

学生時代に研修で訪れたフランスで、長期熟成のハードチーズ・コンテの美味しさに魅了された川瀬さんは、工房でつくる代表格のハードタイプのチーズに、牧場がある地名「富野(とみの)」と名付けた。大型20kgのチーズ。ナッツのような香ばしさが口の中に広がるとともに、雑味がまったくなく、作り手の純真な人となりが感じられる。
奥様の美和さんに、昭人さんはどういう人ですか?と聞いたとき、ためらうことなく、「真面目な人です」と言い切ったことをはっきりと覚えている。「誠実な人なので、誠実なチーズですよ」という表現は、味わった人は誰もが納得することだろう。

2019年11月に行われた「第12回ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト」では、川瀬チーズ工房の「フリル」が日本一となる農林水産大臣賞を受賞した。学校を休ませ連れて行った息子とともに、表彰式の壇上にのぼった川瀬さん。その様子を撮った写真を私からすぐに美和さんに送ると、「彼は、毎日毎日一人夜遅くまで工房にこもって頑張っていたので、よかったなぁと心から思います。」と返信がきた。息子の目にも、日本一の父親の姿はさぞかっこよく、誇らしく映っただろう。誰が見ていまいが、誠実に努力を積み重ねる。そのことが結果としてあらわれる姿に、息子も、きっと不断の努力を積み重ねていくに違いない。