長く遠き地域の未来を見据えるチーズ
~レークヒル・ファーム~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

長く遠き地域の未来を見据えるチーズ
~レークヒル・ファーム~

アイヌ語の「ト・ヤ」(湖の・岸)を語源とする洞爺湖。その湖のまさに岸にあり、振り返ると天気のよい日には羊蹄山を望む、そんな好立地にあるレークヒル・ファーム。
明治35年に埼玉県奥富村より北海道札幌市に開拓入植し、初代が牧場を構えたのが塩野谷牧場の始まり。その後、札幌五輪開催に向けた高速道路などの整備が行われる中、現在の社長である3代目塩野谷幸一さんが、昭和44年、洞爺湖近くの丘への移転を決定し、現在のレークヒル・ファームに至っていることは、あまり知られていない。
搾乳牛60頭が、素晴らしい情景に抱かれる約80ヘクタールもの広大な放牧地の中で草をはむ姿は、絵本の中の情景のようだ。このロケーションの中にある牧場直営のカフェでいただく絶品のジェラートや、作り置きせず毎日炊いているカスタードが入ったシュークリームは、立ち寄る国内外の観光客を思わず笑顔にさせてしまう。

「牧場や、地域を表現するための空間として、なにができるか」。乳製品製造とカフェの運営を担う次男の塩野谷通さんは、常に考えている。
「『地域にこそ可能性がある』と、都会の人たちは無責任に言う。でも、現場は過疎化が進み、人口は減っていく。危機感を持っているというか、危機感しかない。だからこそ、農家の立場、農家の持つ資源をうまく活用して、お金に変えていくには、手段を選んでいる猶予はないと思ってます」
通さんは、時間があれば、全国各地に足を運び、地域活性化の事例の光と影を見て回っている。どうやって自分の地域に落とし込めるかを常に考えている。

また、東日本大震災での被災者支援の取り組みも、現在も中心になって続けている。
「僕らのそばには、有珠山がある。平成12年に噴火して、温泉街も大変なダメージを受けた。観光客も誰も来なくなり、牧場のカフェも誰もいなくなった。有珠山は、またいつ噴火するかわからない。そんなときに、誰も助けてくれないことにならないよう、常に困っている人には手を差し伸べる社会をつくっておきたい。だから、僕はできることをやるんです」
レークヒル・ファームのカフェでしか販売していない「生チーズ」。一度見たら忘れられない日本一長いさけるチーズ「ロングロングストリングチーズ」。
「この場所にまた来たい」と思わせるような工夫の数々は、長く遠き未来を見据え、丁寧にひとつひとつ布石を置いている歩み。置いた小さな石は、ひとの心をつなぎ、きっといつか塩野谷さんがピンチになったときに、多くの人が助けの手を差し伸べることになるだろう。