清らかで美しいチーズ
~キサラファーム~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

清らかで美しいチーズ
~キサラファーム~

アイヌ語で「明るく清らかな川」を意味する「ペケレベツ」を意訳した清水町は十勝にある。
十勝を代表する新聞社・十勝毎日新聞社が、「新聞は大量の紙を使う。環境破壊を毎日繰り返している仕事だ。植樹をして、森を造っていけば、カーボン(二酸化炭素)をオフセット(相殺)できる」という思想から立ち上げた「十勝千年の森」。その乳製品製造部門として開設されたのが、キサラファーム(旧「ランランファーム」)である。

山羊たちの飼育からチーズ製造までを担う斉藤真さんは、長野県出身。短大卒業後、帯広畜産大学に編入し、同大卒業以降、ここでチーズづくりを行っている。
朝、搾乳を終えた山羊たちは、畜舎から雄大な日高山脈を望む、広大な牧草地に出される。夕方、斉藤さんが搾乳の合図の鐘を鳴らすと、見えないところから、山羊たちが集まってくる。鐘を鳴らし、山羊たちの群れを引き連れて畜舎に帰る姿は、日本離れしているようにさえ見える。

斉藤さんの哲学は、「美しいチーズづくり」。
「美しいことには意味がある。形が偏ると熟成が均一に進まない。例えば、製造の中心である酵母熟成で炭を使っているチーズは、薄い酵母の表皮と炭が、雑カビをコントロールする。適度に生えそろい、コントロールできているチーズは美しく、美しさは適切な熟成が進んでいる、つまり美味しい証拠」

美しさは、山羊の毛並みや表情を見ても感じられる。
山羊チーズは臭みが強いと思う人も多いだろう。輸入チーズが増えたときに、多くの「臭い山羊チーズ」が輸入されたことが、固定概念のようになってしまったように思う。フランスで食べるフレッシュタイプの山羊チーズの爽やかさは、山羊乳と言われるまでわからないようなものも多い。
香りが移りやすい山羊チーズであるがゆえに、斉藤さんは畜舎環境を整え、放牧での管理にシフト。山羊の毛並みはいつもきれいで、放牧地に行くときの躍動感は、跳ね気味の山羊の足取りからも感じられる。その幸せな山羊からつくられるチーズは、山羊臭さではなく、「旨み」の感じられるチーズになり、ここの山羊チーズは好き!というファンが広がっている。
 
冬の間は、山羊の搾乳はおやすみ。そのときに、酪農家の牛の生乳を使ってチーズを試作し、そのチーズの味の違いや個性を地域の人と楽しむようなこころみも始めている。
斉藤さんは、会うたびに、「こんなことやろうと思ってるんだよね」というワクワクする話をしてくれる。
もっとナチュラルチーズのハードルを下げて、たくさんの人に親しんでほしい。また次会うときに、ワクワクする話を聞くのが楽しみだ。