大地に生かされているチーズ
~工房レティエ~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

大地に生かされているチーズ
~工房レティエ~

資源豊富という意味を町名に象徴的に表現した豊富町は、かつて、良質な石炭や石油、天然ガスを産出し、鉱業が盛んであった。町内を流れるサロベツ川は、アイヌ語でエベコロベツ(魚を持つ川)という名を持つように、幻の魚「イトウ」が棲息しており、釣り師にとって聖地と言われている。

豊富町にある「工房レティエ」の久世薫嗣さんは、大規模経営ではなく、家族みんなで広い草地で牛を飼う放牧酪農を目指し、1989年に兵庫県から移住。家も農地も一から作る自給自足生活と言えば聞こえがいいものの、移住当初は苦難の連続だったそうだ。
それらを乗り越え、酪農家として一歩ずつ歩みを進めながら、2000年に、近隣農家とともに、「あぐりネット宗谷」を設立。チーズ製造、カフェを立ち上げ、ローカルの持つ「豊かさ」を発信する場所をつくってきた。いまは、乳製品加工、カフェなどは、娘のあもさんが、代表となって営んでいる。

久世さんが大事にしているのは、「自然の中で、大地に生かされていること」だと感じる。北海道のほかの地域と比べ、稲作・畑作が難しい天北地域だが、牧草を育てることはできる。牛は人間が食べられない草を反すうし、人間が食することができる動物性たんぱくに変え、人間はさらにその乳をいただく。そんな環境だからこそ、酪農の原点に返ることができる大地といえるのではないだろうか。

久世さんは、隣町である幌延町の核のごみ貯蔵施設建設の議論に参加し、また、東日本大震災後、被災地の子供たちの保養などの受け入れ先としても活動をしてきた。
人に、牛に、未来に、負荷をかけずに生きるためにはと考え続け、導かれてたどり着いたからこそ、子供たちに暗い未来を残すわけにはいかない。その決意が、様々な市民活動にもあらわれている。天北の大地に生かされたチーズは、久世さんの生きざまの結晶なのかもしれない。