「当たり前」のリレーで支えられるチーズ
~酪楽館~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

「当たり前」のリレーで支えられるチーズ
~鶴居村振興公社「酪楽館」(鶴居村)~

北海道の道鳥“タンチョウ”が生息することから名づけられた鶴居(つるい)村。
鶴居村が2002年に農畜産加工体験施設として設立した“酪楽館(らくらくかん)”は、2007年からは村が出資する鶴居村振興公社として、チーズづくりを始めた。
現在製造を担うのは、小山田愛さん。青森県出身の彼女は、帯広畜産大学に入学。チーズ製造などの食品化学を学んだわけではなかったが、たまたま大学同期から教えてもらった酪楽館の求人情報に心を惹かれ、導かれるように鶴居村で新社会人生活をスタートした。
酪楽館のチーズ製造に黎明期から携わる職人の背中を追いかけて2年半。その先達が、自らの工房立ち上げのため鶴居を離れてからは、彼女がチーズ製造を担っている。

酪楽館は、チーズづくりを始めた2007年に「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」で日本一に輝くという鮮烈なデビューを果たし、以後、同コンテストで連続受賞してきた。偉大なる先達の後を引き継いだプレッシャーはいかほどか。そんな周囲の心配をよそに、小山田さんはいつも自分のペースを乱すことはない。
酪楽館のシンボルとなった“ゴールドラベル”、“シルバーラベル”は、評価の定着とともに、ファン層を広げてきた。製造量の増加も求められる中で、品質への期待と需要にこたえるため、しっかりと高い水準で安定したチーズを作り続けることが、職人としての第一の責務だと彼女は考えている。「なにか新しいチーズを作りたいと思うことはないのか?」という問いにも、「試行錯誤中です」と屈託ない。

鶴居村の生乳は、乳質が非常に高いことで知られている。乳質が良いということは、牛が健康で余分な治療費などがかからないことを意味する。すなわち、経営が良いということだ。
その素晴らしい乳質を保つ酪農家の生乳を、毎朝6時に受け入れるところから酪楽館のチーズ製造は始まる。当たり前に高品質の生乳を届けてくれる酪農家の努力を、ひとつも無駄にしないための、職人としての“当たり前の仕事”。
食や農業が、ファッションとしてブームがつくられ、次々と消費されていく昨今。小山田さんに対して、“女性職人”だとか、そういう表面的なストーリーを覆いかぶせることはできるかもしれない。しかし、彼女が毎日積み重ねていることは、酪農家の“当たり前”の努力に対して、最大限の敬意を払いながら、職人として当たり前に昨日よりも上質なチーズ製造を心がける、その“当たり前”の繰り返し。技術をきらびやかに誇ることもない。これからの夢をことさらに大きく掲げるわけでもない。

「人前で話すのは得意じゃないので」と笑いながらも、「おいしいもの、安心して食べられるものを、しっかり届けていくことだけです」と言い切る横顔に、真の職人の瞳の輝きを見た。
私たちの毎日の食は、酪農家、チーズ職人が「当たり前」と言い切る毎日の積み重ねで支えられている。

●「酪楽館」の「ゴールドラベル」と「シルバーラベル」

「ゴールドラベル」は、半年以上の熟成。数量限定で、1年以上熟成した「プレミアムゴールドラベル」を生産しているが、「なんでも長ければいいというわけではない」と、長期熟成にもさほどこだわりはない。

「シルバーラベル」は、3か月ほどの熟成。爽やかな熟成とミルクの香りのハーモニーは、老若男女幅広いファンが多い。そのまま食べても美味しいが、小山田さんは、「加熱しても味わいが広がるチーズ。私は、カレーライスの上に、小さくサイコロ状にして乗せ、溶かして食べるのが好き」とのこと。