美しさのチーズ
~美瑛放牧酪農場~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

美しさのチーズ
~美瑛放牧酪農場~

美瑛川に、十勝岳からの硫黄が溶け込んで濁っていた様を表現したアイヌ語の「ピイェ」(油・油ぎっている)が由来の美瑛町。丘陵地帯のパッチワークの農村景観は、全国に知られる随一の観光名所でもある。

その景観から畑作農業のイメージがある美瑛町に、兵庫県の製パン会社が、美味しいパンのために乳製品を自らつくろうと牧場を開いたのは、2008年のこと。「美瑛放牧酪農場」という名前のとおり、牛をありのままの姿で飼育するという方針のもと、季節を問わず周年放牧を行っている。
ここには、ジャージー種、ブラウン・スイス種、ホルスタイン種のほか、モンベリアード種という珍しい品種の牛もいる。

「美瑛放牧酪農場」がチーズ工房を立ち上げたのは、牧場を開いてから10年以上過ぎた昨年のこと。製パン会社の西川社長の積年の夢でもあった「いつかチーズ製造を」という思いのもと、スタッフの小熊章子さんは、チーズの研修のためにフランスへ渡航。当初1年の予定だったが、もっとチーズのことを深く探求したいという本人の思いに社長が応じ、2年半の長きにわたった。
フランスの設備メーカーに設計と機材の調達をお願いしたガラス張りの工房は、まるで放牧地のど真ん中にあらわれたフランスの博物館のよう。自分がどこにいるかを忘れてしまう。

この工房が製造するチーズのうち、ラクレットチーズ、フロマージュブランなど、放牧乳の美味しさを活かしたチーズたちはもちろんのこと、特筆すべきは、大型のハードタイプ「フロマージュ・ド・美瑛」だろう。小熊さんがフランス研修で長らく滞在したのが、ヨーロッパのハードタイプの代表格ともいえる「コンテ」チーズのふるさと、フランシュコンテ地方。そこで、小熊さんは大型の長期熟成タイプの製造技術をしっかりと身につけた。工房もそのフランシュコンテ地方を参考に、女性ひとりでもチーズをつくることができる、考えられた動線美に仕上げられている。そうした環境から出来上がるチーズの表面、断面の美しさ。口に入れたときに、北海道のチーズの新しい1ページが開かれた確信が得られるだろう。

後に「美しく、明朗で王者の如し」という意味を込めて漢字があてられた美瑛町に、このチーズ工房ができたのは、導かれし運命なのかもしれない。

チーズの紹介:フロマージュ・ド・美瑛
ひと玉40kgほどになる、大きな大きなハードタイプのチーズ。どっしりとしたミルクの甘さ、草の香りはコンテと比較しても劣らず、それでいて日本のチーズとしての味わいの深さがあり、長期熟成したチーズにも、大いなる可能性を感じる。
まだ広く市販されておらず、「美瑛放牧酪農場」の売店とオンラインショップ、「美瑛選果」など町内のショップ、東京・清澄白河「チーズのこえ」でのみ販売している。
 
< 美瑛放牧酪農場 >
〒071-0473 上川郡美瑛町字新星平和5235
https://biei-farm.co.jp/index.html