北海道発、
JR貨物で全国へ

[後編]

はるばる来たぜ、食卓へはるばる来たぜ、食卓へ

北海道発、JR貨物で全国へ Vol.3

北海道産の恵みを日本各地へ届け続けるという重責を担っている、JR貨物による鉄道輸送。その道のりを追ってきたこの企画もいよいよ最終回です。十勝産の馬鈴しょが帯広貨物駅から隅田川駅へ、そして東京千住青果(株)に届くまでに密着。JR貨物による鉄道輸送の現場で働く人の声、馬鈴しょに代表される北海道産農畜産物の市場での評価と期待を伝えます。

途切れのない輸送が務め

十勝の中枢・帯広市にある帯広貨物駅。2018年は12フィート(5t)コンテナ7万個強、約36万tの物資がこの駅から発送されました。「馬鈴しょだけで約7万5千t、砂糖、野菜、豆類を加えると計24万t。発送実績の約7割以上が農畜産物です」と、日本貨物鉄道(株)北海道支社帯広貨物駅の寺尾崇駅長。「これだけの量の食糧を全国各地へ運ぶわけですから、途切れのない輸送を果たさなければなりません。責任重大です」と続けます。Vol.2でJA士幌町の久保武美農工部長が、「全国の消費者を守ることも我々の使命」と語った言葉が思い返されます。

無事に届けるためだけに

貨物列車の運転士である佐藤孝さん(右)は、「列車は昼夜を問わず、一人で運転します。列車の長さや重さ、天候などによって、都度、運転方法を工夫しています」。農作物が多く積まれた列車の場合、重量がかさむため、車輪が空回りすることもあるそうです。「ダイヤ通りに運転することが原則ですから、アクシデントが発生した場合は、詳細を運転士同士で速やかに共有するよう徹底しています」と、運転指導員の佐久間昌広さん(左)。「大切な荷物を大量に預かっているプレッシャーは当然感じます。だからこそ、無事に届けられた時はやりがいを感じます」と、佐藤さんは真剣な表情で語ります。

隅田川駅までは直行で約21時間

帯広貨物駅から列車に乗務する運転士は、札幌貨物ターミナル駅または追分駅までを担当し、そこで運転士は交替。列車は東室蘭駅、函館貨物駅、青函トンネルを通過し、関東方面へは太平洋側ルート、関西方面は日本海側ルートで向かいます。帯広貨物駅から、首都圏の貨物鉄道輸送の北の玄関口である隅田川駅までは直行で約21時間。北海道産の農畜産物は、Vol.1で、日本貨物鉄道(株)執行役員の柏井省吾北海道支社長が説明された緊密なネットワークをたどりながら、首都圏へ到着します。

隅田川駅⇌道内は上下11本

南千住駅のほど近くにある、隅田川駅。1897年開業当時は、隅田川の水運と連絡して木材や砂利などを取り扱っていたそうです。現在は首都圏と北海道、東北、新潟、金沢方面を結ぶ鉄道輸送、首都圏各駅へのコンテナ中継の一大拠点。敷地面積は東京ドーム約5個分、コンテナの取扱は12フィート(5t)換算で一日平均約1,200個。着発列車は一日上下39本(臨時7本)で、そのうち11本(臨時5本)が北海道の札幌、旭川、帯広、函館にある駅が発着地です。

農産品・青果物の約97%が北海道発

12フィート(5t)コンテナが整列しているコンテナホーム、忙しそうに走るトラックやトレーラー、発車準備中の列車、入線してくる列車、貨車の入換作業をする社員の方々が目に入ります。物流の縮図を描いているような隅田川駅には、農畜産物のほか紙、食料工業品、飲料水、引越荷物、化学工業品など、多様な荷物が到着。農産品・青果物に限れば、到着する12フィート(5t)コンテナは年間1万5千個以上で、その約97%が北海道発だそうです。

JR貨物による鉄道輸送だから届く

隅田川駅からトラックに積まれたコンテナは、大半が卸売市場へ運ばれます。1947年創業、業界トップクラスの東京千住青果(株)野菜第一部の高見沢昇部長代理は、「当社には年間6千~7千tの馬鈴しょが入荷し、その8割方が北海道産です。JR貨物による鉄道輸送がないと、これだけの量を届けることも受け取ることもできません。全国に北海道産馬鈴しょが行き渡らなくなります」と説明します。

品種を謳うのは北海道だけ

長年にわたって全国の馬鈴しょを品定めしてきた高見沢部長代理は、北海道産の特徴を、「男爵、とうや、キタアカリ、メークインなど品種を謳って販売し、産地もリレーで出荷しているところです。品種と時期によって異なる食味を楽しめる点も強みでしょう」と語ります。「府県の産地は馬鈴しょとひとくくりで、春先を中心に新じゃがと呼ぶ程度です。北海道の馬鈴しょ生産の厚みと自負を感じます」。

中身を見なくても買える産地

青果物の目利きも担う高見沢部長代理は、到着した箱をすべて開封することはしませんが、変形やサイズ、傷を調べる抜き取り検査は時折行っているそうです。「北海道は、中身を見なくても安心して買える産地です。私自身、作況を見るために毎年産地を訪ねていて、今季も十勝、道央、道東を回りました。生産者さんには『フタを開けないまま売れる品質で出荷してね』と冗談を言ったりするほどの仲(笑)。お互いの信頼あっての取引です」。

作るから売るまでワンチームで

青果は、届いたら可能な限り早く売ることが重要です。「当社では、在庫管理はホクレンさんとかなり密接な情報交換を行っていて、産地に出荷数の調整を依頼してもらう場合もあります。我々も産地も、質の良いものを安定的に供給できてこその信用ですから、それこそワンチームになることが必要なんです。日本の食を守るために、それぞれの持ち場で頑張っていかないと」。高見沢部長代理の心意気が伝わってきます。

北海道産を届け続けるために

畑を耕してから食卓にのぼるまで、作り手、運び手、買い手がたゆまぬ努力を続け、ひとつになって動いています。一人ひとりの原動力は、いつも、いつまでも北海道産の農畜産物を日本の食卓に安定供給しなければという使命感。北海道産の恵みのおいしさには、そうした想いが詰まってもいるのです。