「きたかむいは大切にすればするほど良いいもに育ちます」
生産者の悩みを解決する品種
皆さんは、じゃがいもを長期低温貯蔵すると、甘くなることをご存じでしょうか。JAようていが全国の消費者を対象に実施したアンケート調査によると、「知らない」と答えた人が全体の約7割にも上ったそうです。一般的に〝新じゃが〟が珍重される傾向の中、2007年に北海道の優良品種に認定された『きたかむい』は、貯蔵によるでんぷんの糖化が進みやすく、寝かせるほど甘みが増すのが最大の持ち味です。
『男爵薯』作りのベテランで、10年ほど前から『きたかむい』を栽培する森さんは、「一口食べたら、その甘さにびっくりしますよ。おいしさでは『男爵薯』にまったく引けを取りません。しかしながら、知名度はまだまだ低いのが現実です」と話します。
『きたかむい』は、基本的に『男爵薯』と栽培方法が変わらないものの、『男爵薯』よりも害虫に強く、収量も多いという利点があります。全国的にじゃがいもの作付面積が減少する中、同JAでは『きたかむい』の作付面積が、この10年で10倍以上に拡大しています。「じゃがいもを栽培する上で、一番の悩みの種が害虫ですが、『きたかむい』は、生産者の悩みを解決してくれる品種です」と森さんは説明します。
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「天気予報をよくチェックし、時には待つことも仕事のうちです」と森さん
名前とおいしさを全国に広めたい
「昼夜の寒暖差もあり、収穫前の9月に入ると自然とでんぷんが多くなります。うちのいもがおいしいのは、羊蹄山のおかげかも知れませんね」
おいしいじゃがいもを安定的に作るコツは、「毎年同じように育てること」と森さんは話します。
「毎年土壌の成分を調整して、葉の状態や丈の長さが、なるべく変わらないように育てます。作業の際は、天気予報をこまめにチェックして、土が乾いている間に行うように心がけています。湿っていると土が固まりやすくなり、いもにストレスがかかってしまいます」
さらに森さんは、病害虫の防除を行う時間帯にも注意を払います。予想気温が高めの日には、いつもよりも早起きして作業を行います。「手は抜かず、気を使ってとことん過保護に育てています(笑)。そうすると、見た目がまんまるで品質のいいじゃがいもに育ちます」
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取材に訪れた7月には、白い花が満開
一番手間がかかるのが収穫作業で、森さんの畑では、大型の機械を使って行っています。「トラクターはゆっくりと走らせて、いもに傷がつかないように慎重に掘り上げます。その後はすべて手作業です。家族3人でじゃがいもに付いた土などを取り除き、一つ一つ出荷できるものを選別していきます。最終的に収穫作業だけで、1カ月近くかかります。こんなに時間がかかる作物は、なかなかありません」
収穫されたじゃがいもは、JAの施設に運ばれ、生産者ごとにコンテナで貯蔵。その後、サイズ選別や内部品質判定等を行います。貯蔵施設の中では、外気温に合わせて段階的に温度を下げ、冬期は2度、湿度90%以上に保ちます。森さんは「『きたかむい』は芽が出にくいという特性もありますが、常に食べごろの状態で出荷しているので、家庭で寝かせなくても十分おいしく味わえます」と念を押します。
出荷先は、関東や関西、九州など道外が中心。年明けから出荷が本格化し、翌年4月下旬頃まで市場に出回ります。
「味が染み込みやすい特徴があるので、個人的にはシチューなどの煮込み料理で食べるのが好きです。皆さんには早く名前を覚えていただき、あらゆる料理に使っていただきたいです」
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種いもを植えてから培土までの約1カ月間が、最も神経を使うそう。培土の高さも、毎年同じになるように気を配っています
- 『きたかむい』生産者 森 和也さん(京極町)[JAようてい]
京極町出身。1990年に三代目として就農。
2020年より「食用馬鈴薯生産組合」の組合長を務める。