Vol.10
共働学舎
新得農場
チーズ
「さくら」
北海道の星みっつ旬食材
道内各地の生産者と太いつながりを持ち、北海道の農を熟知する塚田宏幸シェフが、今こそ味わいたい、おいしさ星三つクラスの食材を毎回ピックアップ。調理のヒントを中心に、生産者や食材にまつわるエピソードなどもお伝えします。
vol.10
共 働 学 舎
新 得 農 場
チーズ 「 さ く ら 」

共 働 学 舎新 得 農 場チーズ 「 さ く ら 」

今回は趣を変えて、チーズの登場です。日本のナチュラルチーズ界の先駆者・共働学舎新得農場の「さくら」は、1月中旬から5月中旬のみ販売される旬のチーズ。海外でも高い評価を獲得しています。その個性的な味わいと意外なマリアージュを、シェフがご紹介します。

日本らしい
チーズを目指して

チーズの作り手と、私たち西洋料理の作り手は、似た歴史をたどってきた気がします。第一世代は、先達や本場の教えの通り、習ったものを再現しようと努力し、第二世代は、本場の味を自分たちの土地に合うように工夫を重ねました。そして、いま現場に立つ第三、第四世代は、いかに個性を創るか、その土地で何を表現できるかというテーマと格闘しています。

 

今回ご紹介するチーズ「さくら」が誕生した2003年頃、共働学舎新得農場を訪ねたことがあります。チーズ製造室に通され、開発者から「物まねではない、日本らしいチーズを創りたかった」と聞きました。そのとき、偶然にも窓の向こうに見える新得神社山にエゾヤマザクラが咲いていたことをよく覚えています。

 

「さくら」は、町の自然、作り手の苦悩と努力から生まれたチーズです。共働学舎新得農場では、ブラウンスイス種の牛を飼い、搾った乳はポンプを使わず、高低差を利用した自然流下式のパイプラインで工房に運びます。乳を傷めたくないという理由からです。この乳に、乳酸菌と共に、チーズ用酵母の他に日本古来からの酵母など複数種を使い作りあげています。
そして出来上がったチーズに桜の葉を乗せて10日ほど熟成させることで桜の香りを移しています。

作り手の想いがつまった「さくら」は、桜餅を連想させる香り、口に含むとほどけていくような優しい味わい、酒粕や味噌のニュアンスを楽しめます。かぼちゃを蒸かし、温かいうちに一緒に食べると、桜の香りがいいアクセントになります。また、常温に戻す、または、少し温めてクリーミーにすると、アスパラガスの青臭さや苦みともいいハーモニーを奏でます。

 

飲み物でいえば、ワインは幅広く合います。春らしい桜をイメージするロゼや、冷涼な気候で育ったキリっとした白とは特に相性が良いです。酵母の香りが麹に由来するような、日本人には懐かしささえ感じさせるこのチーズは、日本酒にもよく合います。冷えたチーズとぬる燗、もしくは常温のチーズと切れの良い冷酒というふうに対比をつけると面白いと思います。

 

チーズは外国のものというイメージは過去のもので、北海道のチーズも世界に認められ始めています。そろそろ、北海道のチーズを使って郷土料理のような“食の文化”となるものを創っていかなければと考えているところです。