納豆用大豆
「ユキシズカ」

おいしいの研究

納豆用大豆「ユキシズカ」

vol.22

研究者:鈴木 千賀さん

研究者:鈴木 千賀さん

北海道立総合研究機構 農業研究本部 十勝農業試験場 研究部 豆類畑作グループ 主査。1994年に十勝農業試験場からキャリアをスタートし、納豆用大豆「ユキシズカ」の品種開発に携わる。大豆研究は18年以上。これまで、DNAマーカーや落花生の研究に携わった経験も。納豆は夕食に食べる派。趣味はミシンを使った手芸。釧路市出身。

小粒で甘く、きれいで強い!
納豆用大豆の女王

タンパク質をはじめ豊富な栄養素を含む大豆。豆腐や味噌、醤油、煮豆など、さまざまな食品に加工され、昔から日本食に欠かせない食材です。そんな万能作物の大豆には、納豆専用の品種があるんです!納豆用の品種は、どのように誕生したのでしょう?そして、他の大豆との違いは?納豆用大豆「ユキシズカ」について、十勝農業試験場の鈴木千賀さんにお話を聞きました。

納豆用に開発された大豆「ユキシズカ」とは?

納豆用に開発された大豆
「ユキシズカ」とは?

───── 大豆はいろいろな食品に加工されていますが、納豆用大豆があるように、用途によって品種を分けているのですか。

 

鈴木さん: 基本的にはどんな大豆でも納豆になりますし、豆腐や味噌にもなります。ですが、納豆だけは小粒が好まれる傾向にあって、逆に粒が小さいものは納豆以外になかなか用途がありません。そのため「ユキシズカ」のように小粒の大豆は、「納豆用品種」とされています。

 

───── 納豆に求められるのは、どんな大豆なのですか。

 

鈴木さん: 大粒大豆が納豆に向いていないということはないのですが、一般的には小粒の納豆がよく売れるようです。粒が小さい方が混ぜやすく、ご飯ともよく絡みますし、子どもでも食べやすいですね。また、煮た状態で口当たりが良く、甘みがあって味のいいものが納豆に適しているといわれています。
ちなみに、豆腐に使用する大豆は、タンパク質を多く含む品種の方が硬さを出しやすいのですが、タンパク質が多すぎると甘みがあまり感じられません。バランスが大事です。一般的に寒いところで栽培される大豆は、甘くなる傾向にあります。そういう意味では、北海道産の大豆はおいしい豆腐にもなりやすいんです。

 

───── 納豆用大豆「ユキシズカ」は、納豆に求められる要素を備えているんですね。

 

鈴木さん: そうですね。「ユキシズカ」で作る納豆は、舌触りがなめらかです。2005年に品種として登録(出願は2002年)されて、2007年には全国納豆鑑評会で「ユキシズカ」の名を冠した商品が初めて大きな賞を獲ったんです。その時はうれしかったですね。

 

12年の歳月をかけて選ばれた「ユキシズカ」

12年の歳月をかけて選ばれた
「ユキシズカ」

───── 「ユキシズカ」を開発することになった経緯を教えてください。

 

鈴木さん: 「ユキシズカ」が品種として登録される以前の北海道産納豆用大豆といえば、「スズマル」と「スズヒメ」の2種類でした。なかでも、「スズマル」が9割以上を占めていて、味の評判も上々でした。ところが、栽培の観点から見ると、成熟期が割と遅めで、霜に当たってしまうことがあり、寒さにも弱いというのが欠点。さらにシストセンチュウという土の中にいる小さな虫による被害も出ていて、もう少し早めに収穫できて、寒さに強く、シストセンチュウに強い大豆がほしいということで、「ユキシズカ」が生まれました。

 

───── 新品種はどのようにして、開発されるのですか。

 

鈴木さん: 大豆の品種改良は、交配から始まります。とても小さな大豆の花のめしべに、手作業で花粉を受粉させて交配します。年に数十もの組み合わせの交配を行い、その後代(子)の種子を畑で育てて、そこから有望なものを選抜する、ということを毎年繰り返しながら、新品種を目指してより良いものを絞り込んでいきます。そのため、農業試験場の畑に植えられている大豆の種類は膨大です。
そんな膨大な組み合わせの中で、「スズヒメ」を父親、中国の品種「吉林(きちりん)15号」を母親とした交配から、12年の歳月をかけて大豆品種「ユキシズカ」が誕生しました。

 

───── 1つの品種をつくるのに、12年もの歳月がかかるんですね。

 

鈴木さん: 通常は10年ほどですが、「ユキシズカ」に関しては海外の品種との交配で、血統がかけ離れているため、試験栽培中にすごくいろんなタイプが出てくるんです。もうバリエーションが豊かで、特性が均一になるまでに時間を要したため、結果的に12年かかりました。

 

───── 納豆用ということは、納豆にするまでが試験なのですか。

 

鈴木さん: 農業試験場での種まきや収穫作業は、私たちスタッフが手作業で行う部分が多いです。また、全道色々な地域で試験栽培を行い、収量や品質を確認しています。加工の面では、最後の3年くらいで、納豆メーカーさんに試験をしていただきました。7社で20回。納豆のおいしさや外観、加工のしやすさなどをメーカーさんの観点から検証していただきました。この試験は主に「スズマル」との比較。新たな品種には、これまでの品種と同等かそれ以上の品質が求められるからです。

より良い品種を目指して、研究の手は止めない

より良い品種を目指して、
研究の手は止めない

───── ユキシズカの誕生から、それを超える品種は出てきそうですか。

 

鈴木さん: 品種開発は1つできて終わりではなく、ずっと継続しています。先ほども申し上げたとおり、品種開発には10年も12年もかかるので、一度、その手を止めてしまうと大変。引き続き、納豆に限らず、煮豆、豆腐、味噌などに適した品種を探っています。
今、取り組んでいるのは収量性の向上など。耐湿性の強化も求められています。「ユキシズカ」「スズマル」ともに土壌水分が多い畑に弱いので、もともと水田だったような場所でもしっかり収量を確保できるような品種が求められているんです。
そのほか、これから温暖化が進むと大豆の生育がどうなっていくのか、その辺の反応も気をつけて見ていきたいと思います。

 

───── 畑作業から研究室での分析まで、品種開発には大変なご苦労があると思いますが、鈴木さんの研究を支えるモチベーションは何ですか。

 

鈴木さん: う〜ん、何でしょう(笑)? おいしいものを作りたいという気持ちと、生産者さんにとって作りやすい品種にしたい、そしてそれを収益に繋げてほしいという気持ちでしょうか。
「これは収量が安定している品種ですよ」といっても、毎年、気候は変化しますし、突然の病気が出るかもしれません。たくさん収穫できるポテンシャルがあるというだけでなく、さまざまな障害に強い、倒れたりせず収穫しやすい、食べておいしい、見た目にきれい、そうした品種にするために、やるべきことはまだまだたくさんありますから。毎年、少しずつステップアップしていこうと頑張っています。

 

───── 納豆が私たちの食卓に届く、そのずっと根元のほうにこのような研究があるとは。納豆のありがたみが変わります。

 

鈴木さん: そうですか(笑)?私は納豆が大好きなんです。おいしいですよね。おやつにしても、罪悪感がなくていいですよね。特に「ユキシズカ」や「スズマル」はもちろん、北海道産大豆の納豆は口当たりがなめらかでおいしいと思います。ぜひ消費者のみなさんにも、北海道産大豆の納豆を食べていただきたいですね。

 

───── 子どもの頃からずっと食べている納豆。普段、あまりにも当たり前に口にしていましたが、そのおいしさを支えるために、長い時間をかけて地道な研究が行われていることが分かりました。ありがとうございました。