おいしいの研究
ながいも「とかち太郎」
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研究者:田縁 勝洋さん
北海道立総合研究機構 十勝農業試験場 研究部 生産技術グループ主査(取材時)。1990年に上川農業試験場からキャリアをスタートし、水稲「ななつぼし」などの品種開発を担当。その後、十勝農業試験場でながいも「とかち太郎」などの開発に携わり、花・野菜技術センターを経て2018年から現職。趣味は散歩。
十勝のながいも革命
「とかち太郎」
短冊切りにしてシャキシャキ! すってトロトロ! 火を通せばホクホク! 多様で独特の食感を楽しめるオンリーワンの食材、ながいも。北海道は国内生産量の半分近くを占めるナンバーワン産地で、十勝地方はそのうち7割を担っています。今、この一大産地で「とかち太郎」という新品種が革命を起こしつつあるのだとか。この品種の開発に携わった田縁さんにお話を聞きました。
日本一の産地が、
さらなる安定を求めて開発
「北海道でながいも栽培が始まったのは昭和50年代だと言われています」と田縁さん。でも、少し予習してきたかぎりですが、ながいもは高温を好むんですよね? 「そうなんです。北海道は気象的には明らかに不利なんですが、今では日本一のながいも産地になりました。これを実現できたのは、生産者が大きく育てるための技術力を磨いてきたからです。栽培面積が全国の4割、収穫量は5割で、面積のわりに収量があるという点も技術の高さを証明しています」。
順風満帆に聞こえるのですが、それでも新品種を開発する必要があったのはどうしてですか? 「やはり基本的には高温を好むので、気象条件が良くない年でも安定的に収量を確保することが求められていました。また、畑の面積が限られているなかで、いかに収量を上げるかという課題もあったからです」。
新品種「とかち太郎」、
すでに国内外へ!
今回紹介する「とかち太郎」の開発は、田縁さんが所属する十勝農業試験場と、十勝農業協同組合連合会、JA帯広かわにし、JAおとふけの4団体共同で行われたそうですね。「はい、2005年から2012年までの8年間にわたって取り組み、2017年には農林水産省によって品種として登録されました。これは北海道のながいもでは初めてのことなんです。さらに現在は海外での品種登録の出願も進めているところです」。
ながいもは日本だけで食べられているイメージでしたが、海外でも需要があるということですか? 「最近は海外でも健康食材として注目されています。たとえば『十勝川西長いも』はアメリカや中国などに輸出されているんですよ」。なるほど、そのブランド価値を守るためにも各国での品種登録が必要なんですね。
ところで、「十勝川西長いも」と「とかち太郎」の品種は別ものなんですよね? 「いえいえ、『十勝川西長いも』は、JA帯広かわにしを中心に複数のJAが展開しているブランド名で、使用品種は2019年度から『とかち太郎』への移行が始まり、2020年には全量が置き換わりました。JAおとふけでも今年から『とかち太郎』の栽培が始まります」。なるほど、私たちもすでに「とかち太郎」を買って食べている可能性があるんですね!
「太さ」だけをアップした
理想的な品種
十勝から国内外へと届けられている「とかち太郎」ですが、どんな特徴があるのでしょうか。「ひとことで言えば、太い。それによって収量性を高めているわけです」。ながいもというぐらいですから、長くしてもいい気がしますが…。「十勝で従来育てられてきた品種は長さ60cmほどで、深さ1mの作土が必要です。より長くしようとすれば、さらに深い畑が必要ですが、それが可能な畑は限られています。また、長くなるほど収穫や輸送の作業効率が悪くなるという問題もあるんです」。
なるほど、それで「長さ」よりも「太さ」を追求したんですね! 「はい、従来品種の直径が6cmほどのところ、とかち太郎は7cmを超える太さになり、しかも長さは同等です。この形状によって作業効率を落とさずに20%ほど多収になる計算です」。すごい、とても合理的!
でも、なにか弱点があったりは? 「食味に関しては『大きいから水っぽいんでしょ?』と言われたりもしますが、まったくそんなことはありません。粘り、甘み、色ともに従来品種と同等の試験結果が出ています。また、栽培特性にも差がないんですよ」。まさに太さだけアップした、理想的な品種なんですね。後編ではそんな「とかち太郎」の開発秘話に迫っていきます!