毎日のチーズ
~おおともチーズ工房~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

毎日のチーズ
~おおともチーズ工房(浜中町)~

アイヌ語「オタノシケ」(砂浜の真ん中)を由来とする浜中町。有名なアニメのモデルになったとも言われている幻想的な「藻散布沼(もちりっぷとう)」は、市街地から海岸線を東に向かったところにある。
実家が酪農家である大友孝一さんが、道内の工房での研修を経て1999年に開いたチーズ工房。冷涼で牛にとっては過ごしやすい環境のなか、土壌分析をしっかり行い、草を育て、昼夜放牧に取り組んでいる。

放牧で健康に育った牛から搾った生乳。なにより、自分の牧場であるがゆえに、草の状態、土の状態、牛の状態が常に把握できていることが強み。その搾りたての生乳を原料に手作りするチーズは、幅広い方が繰り返し食べたいと思うチーズを目指している。

作っているチーズの一つ「レクタン」は、「こんどうチーズ牧場(せたな町)」の故近藤恭敬さんがつくっていたデンマークの「ハバティ」というチーズがモデル。白カビタイプの「牧場のカマンベール」の特長はなんですか?と聞くと、孝一さんは「特徴がないことが特徴ですかね」と笑って答えた。クセが強い、コクが強いというよりも、牛乳そのものの風味を表現し、ヨーロッパの主張の強いナチュラルチーズを食べなれていない人たちにも「食べやすくて毎日食べられる」と好評だ。

孝一さんは、これらのチーズを背負って、専務である華苗さんと夫婦交代で、全国の物産展に出かけている。時には、物産展の連戦転戦で、浜中町に数か月戻らないこともあるそうだ。
ネット通販全盛で、ECサイトをつくって販売することは簡単だろう。でも、土をつくり、草を育て、それを放牧した牛が食(は)み、乳として私たちがいただく。食卓まで続く長い長いミルクフードチェーンは、ネット上の文字面(づら)だけでは、伝わらないもの。

直接会って届けたい。伝えたい。そのために、全国に足を運ぶことを惜しまない大友さん。
数年前に、ヨーグルト製造工場を新設。町内でつくられる「霧多布(きりたっぷ)昆布醤油」に漬け込んだチーズなども開発した。
食べやすく、なじみ深い。毎日の食卓にのぼり、チーズを、酪農を、より身近に感じてもらうために、創業して20年たった今も、おおともチーズ工房の挑戦は続く。